JLAU 関西ランドスケープセミナー vol.5
熊谷玄 講演会「物語を紡ぐ」
開催概要
日 時|令和2年 11 月 28 日(土)18:30~21:00
場 所|オンライン(web 会議サービス Zoom + Youtube)
講 師|熊谷 玄 氏(株式会社スタジオゲンクマガイ)
参加者|78 名(講師、スタッフ含む) + Youtube 視聴者
主 催|(一社)ランドスケープアーキテクト連盟 関西ランドスケープセミナー部会
今年度の JLAU 関西ランドスケープセミナーは、新型コロナウイルスの影響を考慮し、初のオンライン開催となりました。今回は、スタジオゲンクマガイの熊谷氏をお招きし、ご自身の作品を通じ、作品を生み出すプロセスやランドスケープデザイナーとして大切にしている想いをお聞きしました。
講演会
やまなみ保育園では、お遊戯会や運動会といったプログラムに追従した丁寧なデザインに加え、近隣の工務店の協力の元、園児たちの日常的な利用と紐づけたデッキのメンテナンス方法まで確立されていました。愛知医科大学では、実際に現地の空を観察し色を集めた空色ベンチを、白百合学園では、本物のゆりを日々観察し、ゆりらしさを追求したファサードをデザインされるなど、ひとつひとつのプロジェクトに対して緻密で丁寧な観察やリサーチをされていることが伺えました。
波板浜では美しい浜の風景を守るため、クラウドファウンディングを用い全国から人とお金を集め、画一的な堤防に地元資材の波板石を貼り、新たな営みの風景をつくること取り組まれました。他にも、これまで廃棄されていた鮮やかな色の貝殻をテラゾータイルに活用するなど、地元の資産を大切にし、仕事ひとつずつに愛情をこめて取り組まれていることがわかりました。
JR 横浜タワー
JR 横浜タワーのプロジェクトでは、これまでまちの裏のつくりとなっていた駅ホーム側のビルの表情を、電車に乗って横浜に着いた人がはじめにみる「横浜の顔」として生まれ変わらせることに取り組まれました。屋上広場は、買い物や移動のための場所であり、来訪者が自分の場所としては捉えられていなかった横浜駅を、来る人々が自分自身の居場所として捉え直してもらうようデザインされました。緩やかなマウンドと一定の高さバーの関係性を何通りものシミュレーションすることにより、色々な属性の人が色々なことをできるような空間を生み出されていました。
加えてこのプロジェクトでは、5年間という長い工事期間の間に立つ仮囲いを、横浜ならではの情報を発信するためのローカルメディアとして活用することで、無機質で徐々に愛着が薄れていくような工事期間の様子までも、横浜を知り、語り、愛する時間にすることに取り組まれました。現在は 4580 冊の横浜にまつわる本を集めることで「横浜をアーカイブする」取り組みを進めているなど、今後も更なる展開が用意されているようです。
グランモール公園
グランモール公園は、「まちのアイデンティティを表現する」、「人々に寄り添い、居場所になる」、「物語を語る」という3つを柱に、グリーンインフラとして都市機能を更新し、まちを支える場としてデザインされました。利用によって棲み分けをさせるではなく、空間全体を様々な利用に使い分けられる場になるようデザインされた広場は、賑わいとひとりで居られる居場所が共存した空間となっています。さらに、水飲みやグレーチングといった管理施設・サービス施設にまで横浜を感じられる仕掛けがなされており、この場所がまちを愛し、まちを語るための場所となる様子が思い浮かぶようでした。
左近山団地
左近山団地では、熊谷氏の地元でもある約 4800 戸の巨大団地「左近山団地」の中にある広場の改修として、長い時のなかで育まれてきた豊かな緑を活かし、団地をまるごと公園化することに取り組まれました。全国的にも稀な、管理組合が主体となって実行されたこのプロジェクトでは、団地に住むあらゆる世代が家から外に出てきて様々な利用が巻き起こるよう、訪れる人と人の距離感を細かく想定し、同じ場所に違う属性の人が一緒にいられるデザインをされました。
ここでも広場のデザインに留まらず、「私のやりたいをやる」ためのルール決めや、やりたいこと集めのワークショップ、団地居住者による芝張りなど、居住者が積極的にこの場所に関わるきっかけをつくり、みんなに愛される場所づくりを実施されました。
さらにそれでも行き詰った熊谷氏は、さらに、有志団体をつくる、PTA 会長になるなど、とことんプレイヤーとしてこの場に関わることで、居住者の方々と思い描く風景を共有することに取り組まれました。最終的には、イベントではなく、日常的な活動が日々巻き起こり、常に屋外に人がいる団地を目指されているそうです。
質問、意見交換
オンラインでの Q&A 形式のチャットを用い、参加者の皆さんの質問に答えてもらいました。新型コロナウイルスによる価値観の急激な変化をデザイナーとしてどう受け止めているかなど、さまざまな質問が出ました。コロナだけでなく、みんなでひとつの物語を共有し楽しむ時代(TV 等)から、自分の物語を伝えて共感してもらう時代(SNS 等)へと考え方が変わっていたように、時代の変化に合わせて柔軟に考え方を変えていき、それをデザインに落とし込むことが重要であるとお話いただきました。しかしそこには、時流にとらわれない日々の研鑽があり、丁寧で妥協のないリサーチがあり、そして様々な専門家との積極的な関わり合いがあり、それら一つ一つの積み重ねが熊谷氏の数々の魅力的なプロジェクトが生まれた理由の一端であることが、お話の中から伺えました。
丁寧に観察や調査をし、愛情を込めて空間をデザインするだけに留まらず、そこが使われ続け、愛され続けるためには何が必要か、とことん追及していった数々のプロジェクトのお話は、非常に興味深く大変有意義な時間でした。
今回のセミナーの様子は、熊谷氏のご厚意もあり、下記リンク先の YouTube にて常時公開されております。これからも関西ランドスケープセミナーをよろしくお願いいたします。
(文責:盛岡諄平)