【開催概要】
日時|令和5年3月23日(木)20:00~22:00
会場|オンライン(Zoomウェビナー)
参加者|Zoomウェビナー視聴人数:151人+登壇者・スタッフ:10人
登壇者|
・ツアー主催者
蓑茂寿太郎氏
(一般財団法人公園財団 理事長、東京農業⼤学名誉教授、熊本県⽴⼤学名誉フェロー)
宮城俊作氏
(東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻教授、設計組織PLACEMEDIA パートナー)
金清典広氏
(⾼野ランドスケーププランニング代表取締役、ランドスケープコンサルタンツ協会会⻑、ランドスケープ経営研究会会⻑)
・モデレーター
平賀達也氏
(ランドスケープ・プラス代表取締役、JLAU副会長)
【セミナーの趣旨】
IFLA-APR日本大会では、参加者に日本の地域性や文化を紹介するオプショナルツアーが企画されており、北海道、関西・中部、九州の3つのエリアでの開催が予定されています。
本セミナーではオプショナルツアー主催者である3名にツアーの詳細とその想いを語って頂きます。
【九州エリア】
蓑茂寿太郎氏
徳永哲氏(風景デザイン研究所 株式会社STEP代表取締役)
■テーマ・狙い
九州エリアでは、「時空」というテーマを掲げ、鹿児島から熊本・福岡へと、南から北にむかって移動していきます。九州は日本の10分の1の規模で、多様な自然と地形、豊かな歴史がありますが、同時に自然災害や戦争などの困難にも直面してきました。これらの要素が九州の独自の文化や平和への祈りを育んでいます。魅力的な場所を巡り九州の歴史や文化を学びながら、その多様性を体感できる構成としています。
■訪問予定地
1日目
・曾木の滝分水路
普段は観光名所である滝ですが、豪雨時に上流側で水が溢れるため分水路の新設工事が行われました。この工事では自然にできた水路のように見せるため、熊本大学の星野裕司先生監修のもと掘削面が自然な丸みを帯びる工法が採用され、法面に郷土種樹木の混植による鎮守の森が再現されました。
・エコパーク水俣
水俣は有機水銀汚染で知られており、エコパーク水俣はその回復を記念してつくられました。
・白糸台地と通潤用水の文化的景観、通潤橋
幕末期に水路が整備され、豊かな農地が広がり生物多様性が向上しました。
2日目
・水前寺江津湖公園
地下水を水源とした湧水が豊かな公園です。
・熊本城
復興の象徴となっている城を見学します。
以下、希望者のみ案内
・大濠公園
・アクロス福岡
福岡の都心で水辺を生かしたランドスケープ計画が進行中の天神地区を見学します。
【関西・中部エリア】
宮城俊作氏
片木孝子氏(スタジオテロワール代表、JLAU理事・ネットワーク委員会)
■テーマ・狙い
関西・中部エリアでは、歩いて体感できるコンパクトな京都宇治の地域を密度高く体感して頂くことをテーマとしています。このツアーには、古い歴史と豊かな文化が息づく宇治の魅力が詰まっています。
平等院をはじめ、世界遺産である宇治上神社などの見どころを巡り、宇治橋からの素晴らしい河川景観を堪能できます。また、宮城先生のレクチャーを通じて、日本文化の発展を肌で感じるとともに京都の美しい世界観に触れることができます。
■訪問予定地
・UDCU(アーバンデザインセンター宇治)
倉庫をリノベーションした「中宇治BASE」を見学します。地域の人々の交流の場やコワーキングスペース等が整備され、まちづくりに関わる様々なイベントが開催される拠点となっています。
・平等院
平等院の正門をくぐると、美しい建物や庭園が広がり、時間を忘れるほどの景色に出会えます。宮城先生によるミニレクチャーが予定されています。
・最勝院
・平等院ミュージアム「鳳翔館」
宮城先生が建築計画・ボリューム検討等にも携わられたミュージアムを見学します。
・竹林+ランチ
・宇治公園
河川整備のデザインディレクターとして、宮城先生が長年携わられています。
・宇治上神社
・宇治橋・中村藤吉平等院店
中村藤吉本店は宇治茶の老舗として有名で、平等院店ではN2Lがランドスケープを設計しています。
【北海道エリア】
金清典広氏
村田周一氏(⾼野ランドスケーププランニング代表取締役、JLAU理事・ネットワーク委員会)
■テーマ・狙い
北海道エリアでは、北海道の広大な大地を2日間で約400キロ走行しながら、異なる地域の環境や文化を体感することをテーマとしています。緑が多くある時期ではありませんが、晩秋の時期の美しさを楽しんでいただけると思います。北海道は、歴史や文化を背景としたフロンティア精神が根付いていることが特徴で、現在も革新的な取り組みが多く見られます。参加者にはこのツアーを通じてローカルからグローバルへと雄大に繋がっていく北海道の環境や精神をぜひ体感してほしいと思います。
■訪問予定地
1日目
・十勝千年の森
・高野ランドスケープ十勝事務所
十勝千年の森から高野ランドスケープ十勝事務所へ向かい、参加者の方に高野さんとの思い出と触れ合って頂く機会を設けたいと思っています。
・トマムリゾート
・富良野、美瑛
・旭川
この日は帯広空港から北へ移動し、旭川での宿泊となります。
2日目
・北彩都ガーデン
・モエレ沼公園
・北海道ボールパーク「Fビレッジ」
・恵庭 はなふる
・すすきの
川駅直結の北彩都ガーデンから始まり、北広島の北海道ボールパークを見学し、隣接するはなふるを訪れ、最後に北海道のナイトランドスケープを楽しみます。
【鼎談】
平賀さんをモデレーターに、ツアー主催者の3名で鼎談を行いました。知識に溢れ経験豊富な登壇者からは、今回のツアーを軸にしつつ、様々な話題が繰り広げられました。以下に主なトピックの要約をまとめます。
■オプショナルツアーについて
それぞれのツアーの紹介を終え、改めて地域文化や暮らしに触れながら、現地の環境や人々と交流する機会をつくり出すことが、オプショナルツアーにおける重要な要素であることが共有されました。テクノロジーの発達により、ローカル・ナショナル・グローバルという捉え方から、ローカルとグローバルが直接繋がっていく世界へと変化しています。ここではローカルな価値をお互いに尊重し合う関係性を構築することが大切であり、それを我々は「ランドスケープ・カルチャー」と位置付けています。
■地域文化の重要性と住みやすい観光地の可能性
地域文化が観光の魅力の大きな要素であり、ツアー主催者である3名もそれぞれ地域に根を下ろすことで新たな出会いや交流が生まれたとおっしゃっていました。また、コロナの影響で住む場所にとらわれない仕事のあり方がじわじわと広がり、生きていく場所の自由度が上がることで、観光地が住みやすい場所として評価される可能性についても言及されました。
■身近な場所からの改善と過去から学ぶ姿勢
世界をより良い場所にするためには、身近な場所から改善していくことが大切であり、過去から学んで未来を知ることが重要です。これにより、地域文化の継承や新たな観光資源の創出が可能となります。また、過去の知識や文化を活用し地域が持つ独自性を発揮することで、より魅力的な地域へと繋がっていきます。
■地域に根付く人材育成
まちづくりをしたい学生に対しプロとしてどのようなサポートができるかが重要です。居住地にとらわれない生き方の議論の中で、今後は会社に所属するというよりも、場所に対して働きかけていきたいという学生が出てくると予想されます。地域と連携してそのような人材をしっかりと育成していく姿勢が今後必要になってきます。
■風景を整える時代
日本が成長していく時代では、庭園であったり公園であったりと、職能をわかりやすく表現し分野として拡大していく必要がありました。ただ、今は拡大から集約の時代となってきています。その中では「風景を整える」という、今ある環境をもとに調和を生み出していくランドスケープのあり方が重要になってきます。
■全体を通して
その土地の暮らしや文化、地域の自然に現地で触れながら、それらローカルな価値をお互いにリスペクトし合う姿勢が重要であることが再認識される鼎談となりました。
IFLA-APR日本大会開催に向けて、多様性のある地域が一体となってグローバルな課題に向き合っていくことが求められます。
(文責:須藤)