実施概要

日時:2023年2月18日(土)14:30〜18:00
会場:株式会社三菱地所設計 スタジオ
   およびオンライン(Zoom Webinar)
登壇者:高木里美氏(株式会社エスエフジーランドスケープアーキテクツ)
    山田裕貴氏(株式会社Tetor)
    古家俊介氏(有限会社デザインネットワーク)
    大野暁彦氏(株式会社エスエフジーランドスケープアーキテクツ)
    丹部一隆氏(メッシュ景観設計事務所)
審査員:戸田芳樹氏、三谷徹氏、石川初氏、伊藤香織氏、山崎亮氏
参加者:会場8名、オンライン52名
主催:(一社)ランドスケープアーキテクト連盟

JLAUでは、昨今の地球規模での環境改善や、新たな生活様式への転換などに対するランドスケープアーキテクトの取り組みを引き継ぎ、将来のプラットフォームを支える人材の発掘と育成を目的として、初めてJLAU AWARD 2022 新人賞を創設し、その公開審査会を開催しました。

プレゼンテーション1:高木里美氏

高木里美氏は、今まで主に個人邸や記念館の庭のデザインに携わっており、それらの場は、規模は小さいがそういった空間が豊かになれば世界は端からでも変わっていくという思いを語られました。
具体的には、犬のための庭として犬の低い視点で認識できる地面の表情を豊かにすることを重視したデザイン、個人のためにつくった庭が周囲の通行人などの目に触れその人の庭にもなるという体験、暮らしや風景などその地の物語を後世に残すこともランドスケープアーキテクトの仕事と捉え「沖島文庫」という本作りの活動をしていることなどの説明がありました。

審査員との質疑応答では、こういった暮らしに密着したデザインは施主とのやり取りが大事であり、SNSのDMや音声コミュニケーションアプリを利用して、形ではなく施主の考えをよく聞くようにしたという話や、庭の周囲との関係をどう考えていたかの問いに対して、その人の生活や庭の使われ方によって生垣などの境界のデザインを工夫しているという話がありました。

プレゼンテーション2:山田裕貴氏

山田裕貴氏は、公共空間のデザインにおいて、継承すべき地形や都市を骨格としてそこに介入できる余白をどうつくるかを大事にしており、境界がなく誰でもアクセスできる誰も排除しない「Inclusive Design」、現場で再利用できるものは積極的に取り入れる「Reusable Design」、単目的な用途ではなく多様な利用を促す「Interface Design」の3つのデザインを重視していると語られました。
具体的には、東日本大震災からの復興に携わったときに、混沌とした復興計画の中でブレない骨格を持つことと、いろいろな思いを引き受ける余白が必要と感じたこと、設計や監理の期間が長く続いている公園の事例では、現場から発生した材料の再利用や、長く公園が使えなくなることに対して一部を解放しながら工事を進め、手入れするように設計を行っていた経験などの説明があり、通常公共にはないデザイン監理まで行うことやディテールの追求などを心がけているとのことでした。

審査員との質疑応答では、公共だと監理がないことが多く勝手に変えられてしまうことがあるので、住民とのワークショップなどを経てデザインを変えられないようなプロセスを踏むことや、監理業務ができるように自治体をうまくやり取りを行うことの大事さ、設計者の手を離れた後も継続して手入れが行われるように設計時から考えることが大事さなどの話などがありました。

プレゼンテーション3:古家俊介氏

建築学科出身である古家俊介氏は、建築と建築、建築とひと、建築とまち、建築と自然など、建築を中心とした様々な中間領域を扱い、その中間領域を介してさまざまな空間とつながる新たな風景をつくることを目指していると語られました。中間領域には、それぞれの場を等価に捉える「等価性」、それぞれの場に中心をつくりたくさんの中心がある「多中心性」、それぞれの場同士をゆるやかにつなげる「連続性」を持たせることが大事であり、それを実現するために、手前と奥のヒエラルキーのある透視図的な思考ではなく、固定の視点をもたないアイソメ図的な思考で設計を行っているとのことでした。
多様な居場所やステージなど屋外全体が学生ラウンジとなるようにデザインされた大学キャンパス、商業空間と公共空間の中間領域として階段状の屋上にさまざまな憩いの場所をデザインされた商業施設の説明があり、そこには曲線のデザインがあり、おおらかさを空間に与えることも意識しているとのことでした。

審査員との質疑応答では、建築計画が決まった状態からランドスケープの設計に関わることが多いが、建築のコンセプトを自分なりに解釈した上で必ず建築側にも意見や提案を投げかけるようにしており、建築家とのキャッチボールを大事にしているという話などがありました。また、使われ方を意識した空間とニュートラルな空間のバランスを考えてはいるが形へのこだわりが強く出ることが多いという古家氏の発言に対して、審査員からある程度曖昧さを持った空間も大事であるというコメントがありました。

プレゼンテーション4:大野暁彦氏

大野暁彦氏は、変わっていく自然のダイナミズムをデザインに取り込むこと、荒っぽく触れがたい自然に対してやわらかく繊細な造形をすることの2つのことを常に意識しており、その手法として、おおらかな線形をもつ空間で自然を受け止めるデザイン、人が触れられる小さなスケールをもつ空間のデザインを取り入れているとのことでした。
具体的には、既存のイヌシデの林を保存しながらリボンのような曲線の手すりを設けて自然空間を体験できるようにした障害をもつこどもたちの施設の園庭のデザイン、敷地周囲の植栽地から在来性植物の採種を行い育てて植えた公共施設の事例、郊外の山間の工場周りの人の居場所として柔らかなデザインの家具などを配置しながら快適な緑地を再整備した事例などの説明がありました。

審査員との質疑応答では、サードプレイスをデザインすることで住民に都市や自然に対する気づきを与える点的な活動をしながら、一方で大学では自治体などと大きな規模での議論をする面的な活動をするという二面性をもって活動することで都市や自然と人との接点をつくっていけるということ、学生に対しては地形や変化のある大地をどう考えるかと時間をどう考えるかが大事であると教えていること、今後は川の流域全体をデザインするようなさらに大きく大地と関わる仕事をしたいという話などがありました。

プレゼンテーション5:丹部一隆氏

丹部一隆氏は、それぞれ関係を持った集合体が網目のように絡んで現れた風景がランドスケープであり、様々な空間、知識、時間が関係しあった場を成り立たせることがランドスケープアーキテクトの職能であるという考えを語られました。
具体的には、災害地の公営住宅の計画では限られた敷地のなかでどう今まで生活していた場所のスケール感を実現するかを考えたこと、それを住民との直接の対話や敷地の詳細な調査ができなかった中で周囲の景観と関連させながらランドスケープの観点で建物配置計画を行なったこと、交通、商業、住宅の異なる機能をもった住宅地の計画においてそれらの機能を一つの大きなデザインで緩やかに繋ぐことを目指したが、交通部分についてはそれが叶わなかったことなどの説明がありました。
また、丹部氏はドイツと日本で活動をしており、日本にいながらもいつも通りに異国の仕事に従事できること、世界では男女比が50.3:49.7であるのに対し、日本では多くは男性がつくった空間で生活していることに対する違和感、ランドスケープアーキテクトは世の中の大きな問題を扱い、困っている人に手を差し伸べるような活動をするべきであるという思いを語られました。

審査員との質疑応答では、プロジェクトでできなかったことを語るのは良いプレゼンテーションであったという審査員からの感想や、様々なスケールでの敷地分析、特に微細な勾配にも着目して横断的に空間を捉えることが大事と考えていること、ドイツでは敷地にとらわれることなく街に対してどう骨格をつくるかが重要視されていることが良いことであり、一方で日本では繊細な構造物デザインなどが優れているので、その両方の感覚を大事にしているという話などがありました。

選考審査

選考委員会は、造園、土木、建築など多様な専門分野からのランドスケープデザインへの異なるアプローチをどのように評価すべきなのか、また評価できるのか、戸惑いの声から始まりました。登壇者には事前にプロジェクトにおける取り組み、成果の社会的な意義と自己評価、ランドスケープに対する考え方についてプレゼンテーションを求めていました。これに対して、1)地域と対象地の関係性の読み取り、分析における着眼点(同時代性の獲得)、2)コンセプトとデザインの発想(新しい風景像の提案)、3)地域や社会に及ぼす影響(ランドスケープアーキテクトの使命、目標)、4)選考委員の専門性から感じられる可能性の4つの評価項目を立てて審査が行われました。作品の優劣のみによらない、ランドスケープアーキテクトとしての将来性に対する議論は難航しましたが、社会に対してどのように向き合っているのか、どのような思いを持ってプロジェクトに取り組んでいるのか、今後、どのような世界をつくりあげてくれるのかといった観点で評価が行われ、受賞者が決定しました。今後の新人賞の意義を考えるうえでも示唆に富む結果を残すことができました。

トークセッション

選考委員会が開催されている間に会場では、登壇者5名と会場の参加者による意見交換を行いました。まずは今回の審査会の感想を登壇者5名に伺ったところ、同世代、あるいは出身が造園、建築、土木など異なる分野の方々と交流できる良い機会になったという感想が多く出ました。ランドスケープは扱う領域が広く、様々なルーツを持つ方々がいるので、その方々の活動を多くの人々に知ってもらうということもこの賞の一つの成果となったことが感じられました。
また、問題が複雑化している現代における合意形成の重要性、そういった変化のある時代の中でも自分の興味や強みは大事に貫いていくこと、全て使い方を決めるようなデザインをするのではなく住民に委ねる余白を残すことも大事であることなどの議論が行われました。

結果発表

結果発表の前に各審査員より審査ポイントについてコメントをいただきました。

三谷徹氏:
作品ではなく、個人の考え方を重視した。デザインの論理を持っているか、こちらが審査されていると思わせてくれた人、勇気をもらえた人に点数を入れた。

石川初氏:
越境して開拓者として庭をつくっており、このまま進むとその先に知らない風景をつくってくれるだろうという希望のプレゼンテーションがあった。ランドスケープアーキテクトのミッションの風景像をより強く評価した。

伊藤香織氏:
ランドスケープとは色々なものを繋げるもので、多様な分野への広がりを感じた。私自身、都市のことを扱っているので、敷地にとどまらない、都市または地域、周辺の環境への思いなどを評価した。

山崎亮氏:
10年くらいランドスケープの勉強ができていなかったので、今の人のデザイン、考え方を知ることができて勉強になった。仕事を頼む側から見ると、建築家は受賞歴などから探しやすいが、ランドスケープアーキテクトはなかなか見つからないということがあったので、今回、JLAUが新人賞をつくったことに感謝している。仕事を頼みたいと思った人、会話などから形に落とし込む能力がありそうな人を評価した。

戸田芳樹氏:
一人一人の言葉から勇気をもらった。この方はこれから何をやってくれるのだろうという気持ちで聞かせて頂いた。今日で終わりではなく5年後にもう一度登壇していただき、その時にどのような活動をしているかを聞きたいと思った。

【審査結果】
◎最優秀新人賞:丹部一隆氏(メッシュ景観設計事務所)
◎審査員特別賞 三谷徹賞 :大野暁彦氏(株式会社エスエフジーランドスケープアーキテクツ)
        石川初賞 :高木里美氏(株式会社エスエフジーランドスケープアーキテクツ)
        伊藤香織賞:山田裕貴氏(株式会社Tetor)
        山崎亮賞 :古家俊介氏(有限会社デザインネットワーク)

さいごに

今回初めて開催されたJLAU AWARD 新人賞だったが、トークセッションでの登壇者からの感想でもあったように、同世代との交流の機会を作れたことが大きな成果となりました。また、ランドスケープアーキテクトが対象となるこういった賞はまだ世の中には少なく、若く才能のある人材を多くの人々に知ってもらう機会を増やすためにもこういった賞は続けていく必要があると再認識できました。
今後もJLAU AWARD委員会の活動をどうぞよろしくお願いいたします。
最後に、登壇者の方々、審査員の方々、そして参加者のみなさま、ありがとうございました。この場を借りて御礼申し上げます。

(文責:JLAU AWRD 委員会)

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