【ROAD TO 2023 JLAU が掲げる 3 つのテーマ オンラインセミナー】Landscape Well-being vol.02

「Well-being × Landscape」〜 Well-being city 〜

実施概要

【開催概要】
日 時|令和 4 年3月18日(金)
会 場|オンライン(ZOOM ウェビナー)
登壇者|山崎 亮氏(studio-L代表 関⻄学院大学建築学部 教授 コミュニティデザイナー 社会福祉士)、南出賢一氏(泉大津市⻑)、木下 光氏(関⻄大学 環境都市工学部 建築学科 教授)、忽那裕樹氏(JLAU 副会⻑ 2025 年日本国際博覧会特別委員⻑ 株式会社 E-DESIGN 代表取締役)、武田重昭氏(JLAU 会員 大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科 准教授)
参加者|68 名(登壇者、スタッフ含む)
主 催|(一社)ランドスケープアーキテクト連盟

JLAU は 2023 年に日本で開催する国際会議「IFLA-APR 大会」に向け、メインテーマである「Living with Disasters/自然とともに生きていく」を支える 3 つのテーマ「Green Infrastructure」「Well-being」「Landscape Culture」に即した、オンラインセミナーシリーズを開催しています。
本セミナーは、「Well-being」をテーマとした内容では、第 2 回目のセミナーとなります。 「Well-being」について、福祉や新たな働き方など新たな視点を加え議論を深めていきたいと思います。街を 構成する様々な環境を活用し、より豊かな生活をおくる街づくりを目指している「Well-being city」。各地におい て実施プロジェクトに関わっている方々にお話を伺い、今後の「Well-being」の在り方を模索していく機会とします。

session1 違う視点からの「Well-being」

コミュティデザイナーであり、社会福祉士である山崎氏をお招きし、ランドスケープアーキテクトとは違う視 点からの「Well-being」についてお話をしていただきました。また、その内容を基にディスカッションを行いました。

●山崎氏より 「Well-being city」とは何か?

全体を通して語られていたのは、Well-being × ランドスケープがどこにつながるのか、山崎氏の分野である コミュニティデザインを間に入れての内容でした。まず「Well-being」とは、「なんかいい感じ」だと捉えられている背景があり、そのように話していくという前 置きで Session1 が始まりました。この「なんかいい感じ」という漠然とした言葉は、山崎氏には上滑りの言葉に 聞こえ、それにより探究心を掻き立てられ、本セミナーの直前まで考えを巡らせて思いついたという、まだどこにも話していない内容となりました。

自己紹介から始まった前半では、studio-L でのプロジェクトを通して、山崎氏自身の職能がなぜコミュティデザインに行き着いたのか、「Well-being」にどうリンクしていくのかをご説明いただきました。まず、公園デザイ ンに市⺠の声を入れていこうというところから、マネジメント、メンテナンスにも市⺠の方々が関わる仕組みづ くりを行っていき、そこから、地域包括ケア、大学の新しい学科、介護や福祉のイメージを刷新するような全国 同時多発のワークショップ、障がい者差別解消などの取り組みを生み出してほしいと言われるようになったとい う流れでした。つまり、元々のランドスケープデザインから、マネジメントを行い、ワークショップをするよう になり、福祉をやり、今「Well-being」が聞こえてくるようになったということです。

後半では、「Well-being」なデザイン手法について、アメリカのランドスケープアーキテクトである、ハルプリ ン、オルムステッドをモデルとしながらお話いただきました。オルムステッドは、「自己信頼」の著者であるエマ ソンの影響を受けており、そのエマソンは「自己信頼」でヨーロッパの影響を受けすぎているアメリカに警鐘を 鳴らしたかったと山崎氏は理解しており、自分自身の内面を信じることの重要性を説いているといいます。そこ から「自然論」に発展し、世界中の人間、全てのものは同じ元素からできていると考え、直感的に行動・開発すれば、自然に反する行為はしないということをエマソンは言っていると解説していただきました。山崎氏はハル プリンとオルムステッドの 2 人に大きな影響を受けており、共通したものを持っていると考え、そのオルムステ ッドが影響を受けたエマソンの「自己信頼」「自然論」といった思想も取り入れて、コミュニティデザイン、ワー クショップを行っているとのことでした。

「Well-being」とは、直感的に行動・開発を行えば、自然に反する行為はせず、同じ元素からできた共通のも のを持つ他者への信頼から生まれるものではないかと結論づけ、そう考えればランドスケープが「Well-being」 にやるべきことは自ずと見えてくると考えている。と締めくくられました。

●ディスカッション

【Well-being な考え方に行き着くプロセスとは?】

忽那氏:
他者との差異を強調するのではなく、山崎さんのように、自己肯定感があり、他者を肯定できる考え方は、どのようなプロセスを踏んでここまで行き着いたのですか?

山崎氏:
まず、コミュティデザイナーとしての立場について悩んだことが大きいと思います。いきなりコミュティデザイナーが地域に入り込んでも、地域の人との信頼関係がなく迷惑がられました。自分がどう見ら れているかに気がついていなかったのです。生意気だと怒られた時に、気がついて考えました。その際 にエマソンなどを参考にしたのです。まず、相手と自分に共通点を見つけ出そうとしたが、お互いの立 場や条件が邪念となって分かり合えなかったので、「自己信頼」について考え、コミュニティという輪が 「自然論」まで行き着きました。ようやく自分の立場を理解できたのです。

【Well-being な直感を妨げる後天的な考えを取り除くには?】

山崎氏:
武田先生にお聞きしたいのですが、地域の人たちの意見をそのまま反映させれば真理に近づくというわ けではない場合の、人々が囚われている後天的な考えを抜くためにはどうしたらいいでしょうか?東京 の会社の広告が頭にこびりついて小さな東京が心に住み着き、そのイメージができてしまっているとい うような考えです。

武田氏:
例えば山崎さんのような人は、直感に従いやすいためそのような考えが抜きやすいですが、他のみんな が「いい感じ」にならなければ、山崎さんも「いい感じ」ではないと思います。そこの共通理解をどう伝えるのかを考えるといいのではないでしょうか。Session1 での山崎さんのお話は、自然論対経済論の ような話でしたが、エコロジーもエコノミーも語源は一緒だと考えると、大切な真理や直感は全部を関 係づけて生かしていけるものこそ、直感的なものなのではと思います。それが、様々な人をつなげるか どうかというように見ないと、自分だけの直感が「いい感じ」でも上手くいかないということがあると 思います。

【Well-being と経済の関係性は?】

山崎氏:
今の日本語でいう経済は、貨幣経済を強く意味し過ぎていると思います。エマソンの弟子が書いた著書 である「森の生活」というエコロジストのような本は、経済から語っています。自然論を語りたかった わけではなく、経済とはエコノミクスを語っています。本来は動植物とも関連している考えと経済を考 えることは矛盾していませんが、先ほど対立軸として語ろうとしていた経済の話は金儲けの話でした。 これは直感にそぐいにくいものです。後天的にそれが幸せだと教え込まれたのです。それが人間の真理 に近づく道なのか僕らがきっちり考えないと「Well-being」に近づかないと思います。上滑りして、SDGs やロハスのように消費していってしまうと、結局「Well-being」を目指していたのに、「Well-being」を うたう企業にお金が動いてしまいます。

忽那氏:
最近「Well-being」をよく見かけますが、流行りに持ち込まれると変な消費に持っていかれてしまい、 勿体無いことになります。一方的なものではなく、関係性構築、プロセスをとれる場所を作っていく ことが大切だと思います。
木下氏:エコロジーとエコノミーの話は面白いと思いました。公衆衛生と都市計画は関係が強く、元々の都市計 画は公衆衛生から始まっていますね。

【ランドスケープ×Well-being な直感とは?】

木下氏:
直感をどう育てたら良いのかということを考えると、直感の鍛え方は 20 世紀と 21 世紀では違います。 そこにランドスケープができることがあるのではないでしょうか。

忽那氏:
チャレンジから醸成されるものがあるのは確かですね。

山崎氏:
「直感」と「直観」があり、エマソンは「直観」を言っている。エマソンは、直接見て判断するという意味で、良きものを直観せよと言っていました。エマソンを日本に紹介した柳宗悦は、「直観」を物にあて ました。そのため、「直感」が日本ではよく使われます。ワークショップでは「直観」で、何が正しいか 見ること、曇るならどう取り払えるのかを考え、目の前の人と話すことに集中し、直接見ることを意識 します。ランドスケープが多様性を担保し続ければ、どういうお題に対して邪念を拭って直感を信じら れるのか。ランドスケープの空間が、直感と自身を助けることがあると考えています。

session2  各地における「Well-being city」プロジェクト

「Well-being city」は、街を構成する環境を活用して、より豊かな生活をおくる街づくりを目指しているので、 その内容は様々となっています。そこで現在、各地で先進的に実施しているプロジェクトに関わっている方々 からお伺いし、今後の「Well-being」の在り方を模索しました。

●南出市⻑より 泉大津市の「Well-being」な取り組みについて

泉大津市では、グランピング BBQ 施設、駅前図書館、令和5年度にオープン予定のヘルシーパークなどの空間を活 用して、公⺠連携・市⺠共創で様々なプロジェクトを展開しています。また、関⻄万博の共創パートナーとして、共創チ ャレンジを開始しています。空間に対してどのような取り 組みがあるのか、どのような考え方で仕組みづくりを行っているのかを発表していただきました。

取り組みを説明する前に、南出市⻑が過去取り組んできた 活動から言えることは、場があって人が集って、お互いの人生 に関わり合いながら影響していく素地ができると、次に限界 を感じたのが空間の仕組みづくりだというお話がありました。関⻄国際空港のハブである泉大津市は、「アビリティタウ ン泉大津」として、泉大津から日本・世界の共通課題の解決モ デルを、公⺠連携・市⺠共創で創造する「近未来の当たり前を先駆けて創る」ことを目指しています。「アビリティタウン構想」とは簡単にいうと、本来人間が持っている能力を最大限引き出そうというものであり、自然の摂 理とテクノロジーを融合して、人間に本来備わっている力を最大限に引き出し、QOL と「Well-being」を向上さ せるという目標を掲げています。

みんなでつくる未来の公園、(仮称)小松公園の実現に向けてワークショップの継続や、広場の清掃を地域の 方々と行い、スケボーパークの実現を目指した取り組みも、公園の完成イメージと共にご紹介いただきました。公園はつくることが目的ではなく、その後どう使いこなすかが重要だというお言葉には、実現に向けた市⻑の強 い意志を感じました。また、泉大津市が日本で唯一実施している「コロナ予防・養生・後遺症改善プログラム」のご紹介もあり、無料体験モニターを募集中とのことです。

●木下氏より 堺市とシンガポールでの取り組みについて

堺市での取り組みは、エディブルスクールヤードをキーワードとして、関⻄大学のキャンパスと街をつなげることを、 人間健康学部と病院で協力して5〜6年おこなってきた取 り組みで、演習課題にも取り入れて、リサーチから提案につなげるというものです。また、アメリカを参考にして堺版エ ディブルスクールヤードを上手く実現できないかを議論し ており、将来的には、人間健康学部のカリキュラムに取り入 れて、学生が教える立場になれるようにしたいと考えているそうです。

ニーズがあるところにプロジェクトが発生する事例として、NPO法人Be Creative での屋台のプロジェクトが ありました。屋台はアーティストとコラボレーションして学生が屋台を制作し、ストリートイベントで使用しま した。このプロジェクトでは、地域の子どもたちをどのように育てていったら良いか、どう発展させていこうか を考えているとのことでした。

シンガポールでは、どのようにして水と緑のネットワークをつくっていくかをテーマとした、オルムステッドを参考にしたパークシステムというものをおこなっていて、 体を動かし、可能性を引き出すための環境づくりについてお 話がありました。ランドスケープアーバニズムは盛んだが、 心がどうあるべきかがインフラになるべきだと木下氏は考え ており、体と環境がどうあれば心が育まれるのか、それにラ ンドスケープは何をするべきかという問いにつながりました。

最後は、感情を伴う体験が記憶を作っていくものであり、すなわち、体験のあり方に感情を伴わせることを考 えると、建築やランドスケープ、コミュニティデザインが、人間の直感力、身体のあり方をどのように育むのか が、今後の大きなテーマになっていくのではと締めくくりました。

ディスカッション

【心のインフラの作り方は?】

武田氏:
心のインフラの作り方は、ブルーインフラ、グリーンインフラの延⻑線上にありますか?別ですか?

木下氏:
多様なフィジカルな環境を用意するべきだと思います。何のためのインフラかが重要で、人間の心のためにつくることが重要です。

山崎氏:
ブルー、グリーンの上に乗せられるのが、心のインフラだと思います。イタリアの事例では、90年代に精神病棟を無くしていく法律をつくりました。当初は不安な声が大きかったが、結果として人と人と が助け合う環境になりました。心のインフラが整った事例です。

【Well-being から考える教育とは?】

山崎氏:
美しい場所は必要だが、教育のインフラが重要です。受験のために勉強をして、就職をして忙しく過ご す生活の中に、場所を利用する時間がないことも問題ですが、偏差値で測れない能力として、空間把握 能力や運動能力、芸術、他人を察する能力はどこで育てますか?今の教育ではそこがお粗末すぎる。もっと人々が接する道徳教育のようなものは、家庭環境や地域がセットで取り組むべき問題だと思います。

木下氏:
シンガポールでは教育に力を入れています。お年寄りと子どもたちをランドスケープでつなぐことは考 えられるのか、ということにチャレンジしています。そのプラットフォームを実現するために、教育と ランドスケープがつながる必要があると理論武装することも必要だと思います。パブリックデザインは、すべての人に公平である必要があります。

登壇者から一言ずつ

南出氏:
街の人と体験できることや幸せを感じられること、子供を中心としたいいものをつくって行きたいと思 います。またみなさんと関わりながら走り続けたいです。

山崎氏:
Well-beingな時間でした。

木下氏:
普段使用している言葉ではあるが、「開発」は「内なる開発」として使用していきたいと思います。

武田氏:
考え直さないといけないと思いました。平安時代の言葉で、作り方として「よりくるところに従え」とは、自分の中にあるものに従うということ、もしくは、他者にあるものに従え、ということのように思えて、ランドスケープといろいろなものをつなぐ可能性があると思いました。これが日本古来のものに書かれていることがすごいですよね。

忽那氏:
私たち自身を見つめ直すことから、まちづくりの方法を模索するということを、ゲストのプレゼンに考えさせられました。設計のプロセス自体を見つめ直し、一緒に行動を起こしながら「Well-being」なも の、働き方についても考えて行きたいです。今回がきっかけで、みなさんの中の「Well-being」が掘り下げられたり、明日の行動がより良い状態になってくれたらと願います。

視聴者の皆様、登壇いただいた皆様、ありがとうございました。
今後のセミナーもどうぞご期待ください。

(⽂責:事業セミナー委員会)

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