開催概要
日時:令和4年7月31日(日)17:00〜19:30
場所:オンライン(web会議サービスZoom )+部会メンバーのみ現地(鳳コンサルタント)
講師:オウミアキ(office ma)
参加者:98人+講師、スタッフ8名
主催:(一社)ランドスケープアーキテクト連盟
今年度のJLAU関西ランドスケープ セミナーは、JLAU Landscape Cultureの企画と合同で開催いたしました。開催形式は、コロナウイルスの影響を鑑み、一般の参加者はオンラインでの参加としつつ、部会メンバーは会場での参加というハイブリット形式での開催に臨みました。今回はoffice maのオウミ氏をお招きし、ご自身の活動や作品を通じ、作品を見るだけではわからない思考やデザインプロセス、活動を行う中で見えてくる場所における文化の違いなどランドスケープデザイナーとして大事にしていることについてお聞きしました。
- 間 -ま/あいだ-
オウミ氏はoffice ma での日々のプロジェクトの中でランドスケープデザインにおける「間-ま/あいだ-」というキーワードを考え続けることにより、その場所ごとの最適なストーリー/デザインを組み立てることが重要であると考えているそうです。常に間を感じながら新しい関係性・バランスを支える仕組みを考えることを大切にしておられました。
「間-ま/あいだ-」というのは、都市のボイド/オープンスペース、敷地と周辺の関係性、時間軸、自然と人の営みなど多種多様な関係性の間があり、これらの間を思考することでそこから見えてくるランドスケープの可能性を探り続けているとのことでした。
- Ginza Exotic
銀座のストリートスケープを構成する植栽という小さなスケールから世界で起きている大きなトピックである温暖化への気づきをあたえるきっかけを作るプロジェクトの紹介。
銀座の場所性である「情報発信」をテーマとし、情報発信の「メディア」として植栽を活用した点がとても興味深いプロジェクトでした。日本のストリートスケープではあまり採用されない/見慣れないエキゾチックプランツを街路植栽として採用することで、歩行者が植栽に興味を持つようなきっかけを作り、QRコードを調べることでさらに植物の詳細な情報にプラスして温暖化について知ることができるような仕組みを計画していました。
銀座に新しい華やかさを提供しながら世界の変化をとらえるきっかけを歩行者に作ることで、人・文化・世界がストリートスケープを通してつながることを目指していました。
- Smart Topography @ Beijing Expo
北京花博にて「植物がもつインテリジェンス」というコンセプトのパビリオンの外構プロジェクトの紹介。
外構は「地面や地形がもつインテリジェンス・パフォーマンス」をコンセプトとし、雨水管理機能を地面・地形に持たせることを目的とした彫刻的な地形デザインをされておりました。中国全土における近年の水害問題に対するスポンジシティ構想を念頭に置いた雨水管理機能の実現のため、対象敷地の気候条件・地質・地下水など丁寧に読み解きつつ、ウォーターエンジニアとのコラボレーションを行うことで説得力のある地形デザインを行っていました。感覚的に生み出された造形がウォーターエンジニアによるデータ化、フィードバックを繰り返すことでより精密化されていく過程はとても参考になり、有意義なコラボレーションの在り方を示しておりました。
デザイン・アート・エンジニアリング・生態学が融合するプロジェクトにおいてそれぞれの専門性の間に立ちながらバランスをとりつつプロジェクトを進める考え方は、オウミ氏の考えるランドスケープデザイナーの在り方を表しているように感じました。
- Wind Break Urban Forest
日本の高層ビルを計画する上で必要となる防風植栽をアーバンフォレストの一部として位置付けることで防風植栽の価値をより広範囲にとらえたプロジェクトの紹介。
豊洲のプロジェクトでは防風植栽を緑のスクリーンとしての機能のみではなく、住民を守るためのプライバシー保護としての森や周辺環境から緑の景観を確保する機能を持たせることで防風植栽に多様な可能性があることを示しておりました。防風植栽を含めたプロジェクトの緑をアーバンフォレストの社会基盤としての価値として数量化することにより、都市に与える影響の大きさや価値を視覚化することの重要性がわかりました。
- Quarry Park
中国の社会問題を背景としながら、既存コミュニティである農村と新しいコミュニティをつなぐ仕組み・デザインを行ったプロジェクトの紹介。
中国で社会問題となっている食の安全性や家庭環境の変化に目を向けつつ、プロジェクトの対象地域にある農地をその場所の特徴として保存することでその土地らしさの可能性を見出しながら中国における大きな問題に対しても回答を示しているのがとても意義のあるプロジェクトであると思いました。農地としての既存コミュニティと新しいコミュニティの接点となる場所がプラットフォームとして生活を支える新しい場所づくりになっていることがオウミ氏の示すランドスケープデザインの間の力であると感じました。
■質問・意見交換
今回はオンラインでのQ&A形式のチャットと、会場からの質疑を用いて質問に答えていただきました。
ランドスケープ×国際文化という今回の講演会のテーマに対して日本のランドスケープのたりないと感じるところは?という質問にプロジェクトの中で「why」が足りないのではないかとお答えをされました。日本はどのように作るのかという「how」には長けていると思うが、なぜそのプロジェクトを行うのか/作るのかという問いかけの部分が足りないように感じるとおっしゃられており、その「why」をより考えることが事業性の中で新しさや付加価値につながっているとのことでした。
またプロジェクトを取り組むにあたり国の文化的・社会的背景に違いはあるのか?という質問には、場所や国ごとの文化的な違いというよりは、プロジェクトごとのクライアントなどにより異なっており、より複雑な環境で仕事が行われているように感じるとお答えされました。中国やアメリカといった国ごとのくくりではなく、プロジェクトごとのアプローチの違いやかかわり方を変えていくことが重要になってきていると感じているとのことでした。
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国を超えたプロジェクトに取り組まれているオウミ氏だからこそランドスケープ×国際文化というテーマに対してのこれまでと違った角度での考え方を提示していただいたように思います。オウミ氏(office ma)が日々大切にしているキーワードである「間-ま・あいだ-」という言葉を各プロジェクトにリンクして説明してくださったことにより、視聴者がランドスケープデザインの可能性や広がりについて考えるきっかけとなるような大変有意義な講演会となったのではないかと思います。
今後の関西ランドスケープセミナーの活動もどうぞよろしくお願いいたします。
(文責:久保田)