2024.03.16

JLAU関西ランドスケープセミナーVol.7

大野曉彦氏講演会「不確かさ」を抱擁する造形

    

開催概要

日時:令和6年3月16日(土)17:00〜19:30

場所:オンライン(web会議サービスZoom)+部会メンバーのみ現地(安井建築設計事務所)

講師:大野曉彦氏(名古屋市立大学大学院芸術工学研究科准教授 兼 株式会社SfG landscape architects 代表取締役)

参加者:57名+講師、スタッフ12名

主催:(一社)ランドスケープアーキテクト連盟 関西ランドスケープセミナー部会

今年度のJLAU 関⻄ランドスケープセミナーは昨年に引き続き参加者にはオンライン配信、部会メンバーは会場でのハイブリット形式にて開催いたしました。今回は名古屋市立大学大学院芸術工学研究科准教授 兼 株式会社SfG landscape architects 代表取締役の大野氏をお招きし、千葉大学に約10年在籍され、文化庁新進芸術家としてO K R A(オランダ)にて勤務された経験と、研究×設計の二刀流から得られた「不確か」についてお聞きしました。


設計の中でつきあう相手は「不確か」である

モノ-(素材・作り手)

人- (不特定多数の利用・施主・共同設計者・立場)

このような「不確かさ」を相手にしながらも、「設計者の役割は多様化している中で、あくまでも線を引くことが基本であると思う」という大野氏の言葉が強く響きました。

全体を「包む」線

・「池川保育園」の園路

高知県仁淀川町に位置する保育園では、川がとても美しい敷地から連想されるおおらかな曲線の内側に芝生、そして外のジグザグした細やかな空間には各居場所が配置され、子どもたちの大きなアクティビティーを生み出す計画となっています。

・「六甲最高峰トイレ」の園路

六甲最高峰に佇むトイレでは、折れ屋根で構成されたトイレ棟の床面から連続したコンクリート舗装の円弧によって奥へと誘導され、その「線」が同時に建築の内外、さらに山々とをつなぐ役割も担い、訪れる人の滞留空間を多様にさせる仕掛けも隠されていました。

撮影:小川重雄写真事務所     

・「妙祐寺」の園路

L型の敷地で新しい空間を作って欲しいという要望の中、連続的に同じものが並んでいる従来の墓地ではなく、全体としての繋がりを持ちつつそれぞれの故人に向き合う、個別の空間であるという要素を大切にし、様々な「不確か」がちりばめられている新しい樹木葬のご紹介をいただきました。

・「鍋屋バイテック小広場」のベンチ

屋外空間が重要視され始めたコロナ禍で、工場への通過導線となっていた階段とその周辺を、人の流れを受け止めるコの字型の線形×小さな滞留空間へと更新した本計画では、細部まで丁寧に計画されていました。

建築物の幾何学で屋外へ飛び出させた家具

・「こざかい葵風館」の家具

多様な利用者が繋がることを目的とした市役所の屋外空間では、建築内外で用途が区切られないよう計画、配置された家具が点在しています。それらは全体の空間スケールにあったものであり、かつ、周囲の造形に溶け込むもので構成されることで、周辺のアクティビティーの受け皿になっていました。

撮影:Tololo studio    

・「高蔵寺駅」の家具

愛知県春日井市に位置する交通広場が主体となった駅前広場の改修計画では、必要とされている人の居場所を積極的に設け、さらに駅と接続するまち側へのつながりを意識し、賑わいが町側に生まれるように滞留空間を配置、さらには家具の手触りや質感、見え方も細部まで検討されています。

空間の「流れ」を作る線

・「浄蓮寺保育園」のアプローチ

線形の強弱をつけることで流れを作れないかと検討されており、人の滞留する空間にはできるだけちいさな舗装材を使用することで、一番の利用者である園児にもわかりやすい空間構成となり、子どもたちの日常に溶け込んでいる様子が目に浮かびました。

・「岐阜現代美術館」のアプローチ

既存と新設の施設という全く異なる二つの空間を繋ぐ必要がある状況下で、展示されている作品の作者や作品に注目し、墨の濃淡を表現した直線的なパネルによって空間の「流れ」を作る線として表現されています。

立体的な空間体験へ変える線

・ぶるーむの手すり

障がいのある子どもたちのデイケアやグループで宿泊する施設の屋外空間には、明るく白いリボンのような手すりを設け、そのレールの角度を変化させながら、泳ぐように木々の間を抜けていくことで、目線高での空間体験を創造されていました。

・名古屋2丁目

都市の街路樹は等間隔配置されており単調であるという問題に対し、地面が揺れ動いているように計画できないか研究室の学生とともに検討され、高さの異なるファニチャーにパンチングメタル使用、さらに碁盤の目のようにも布のようにも見える模様の表現は、街路に溶け込み、単調で平たんであった空間が、立体的な空間体験へ変える線へと生まれ変わっている様子でした。

「線」を描くにあたって

  「不確かさ」を抱擁する

   「線」と「造形」をつくる

  「不確かさ」の中に存在する「骨格」を

   「線」であぶりだす

  「骨」のまわりの柔軟な肉で

    さまざまな調整を図る

 この3点を最後に改めて提示いただき、不確かさの中で、線を描くことの意味、それらを支える骨と肉の関係について大野氏の考えを一つ一つ丁寧な言葉でお伝えくださいました。

質問・意見交換

今回はオンラインでのQ&A形式のチャットと、会場からの質疑を用いて質問にお答えいただきました。

本講演会で重要なテーマであった「線」を描くにあたり、「骨の思想は自信を持って提案していく、ただ肉の部分には余白を持たせて提案する」というお言葉が特に印象的でした。また、研究と設計を両立されている大野氏は言葉の起源やそれぞれの場所性に真摯に向き合っていらっしゃるように感じ、線の重要性を再認識させられる貴重なお話でした。

(  文責:中川  )

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