2021.11.04
町田薬師池公園四季彩の杜西園ウェルカムゲート Well-being とランドスケープデザイン
JLAU 都市デザインセミナー Vo.12
セミナー概要
「終わらない場づくり」の理念を具現化した作品をテーマにセミナーを開催します。複合施設の整備や認知度、回遊性の向上などを目的に作成された作品において「Well-being」という概念をランドスケープデザインにどれだけ融和し何が果たせるのか。場づくりという視点とコロナ禍という社会環境の中において、ランドスケープデザインの可能性についてお話を伺います。
実施概要
日時:2021 年 12月5日(日)
場所:町田薬師池公園四季彩の杜ウェルカムゲート
主催:( 一社 ) ランドスケープアーキテクト連盟 (JLAU)
講師:石井秀幸氏・野田亜木子氏
参加者:現地 27 名、オンライン 15 名 ( 講師、スタッフ含む )
当セミナーでは、2020 年の造園学会賞を受賞された町田薬師池公園四季彩の杜ウェルカムゲートの見学会を行いました。午前中に行われた南町田グランベリーパークと連続で行われたセミナーとなり、両プロジェクトの見学会を踏まえた「Well-being とランドスケープデザイン」をテーマとした対談も行われました。
今回も新型コロナウィルス感染拡大防止の観点から現地見学 + オンライン中継の併用での開催となりました。
見学会の様子
まず初めに、見学会は当日のお昼からのスタートとなりましたが、薬師池公園の立地について、町田駅からバスで約 20 分とアクセスの条件があまり良くない中で、コロナの影響もありながら、多くの来園者で賑わっていたことが印象的でした。
設計者であるスタジオテラさんはプロポーザルでの参画で、当初は 1 棟であった建築計画を地形に寄り添った分棟計画とし、「雑木林の中の集落」をコンセプトに、計画されたとのお話をいただきました。
計画の特徴としては斜面緑地の尾根から見える風景を大事にして、そこに至る公園入口側の建物群から約20m の高低差をバリアフリーで手すりを設けずにいかにつなげるかにこだわって設計を進められたとのことでした。雨水処理を地形の起伏によって分水して処理する考え方で、現場にて決壊している箇所に畝を作って調整する等して、園路形状も都度細やかに修正を繰り返しながら計画を進めたとのことでした。実際に 4% 勾配で尾根へと続く歩行空間は、緑の中を緩やかに蛇行しながら、変化する風景や尾根からの眺望への期待感あふれる快適な歩行空間でした。園路の各所に設けられたベンチも高さ (370mm) にこだわられ、ゆったりと座ることができ、座面のグラフィックコンクリートを用いたパターンも、竣工時に植栽された雑木林の苗木が成長した際には、林が作り出す木漏れ日と同化する意匠となっており、隅々まで設計者のこだわりが感じられる丁寧なディテールとなっていました。
雑木林のアプローチを抜けた尾根のエリアからは、公園の入り口からは見ることのできない薬師池公園全体を見渡せる眺望が拡がっていました。
行政との連携について
場所を公園内のライブラリーに移して行われた対談の中で、午前中に行われた南町田グランベリーパークも、薬師池公園も町田市の担当者が同じ方であり、設計変更への対応等も「どうしたらできるか」を前向きに考えてくれる方がいらっしゃったそうです。市としても担当者を変えずに、一貫した考え方で取り組んでくれたことが結果として良質な公共空間の創出につながったと感じました。公民に関わらず担当者の変更は避けて通れないことで、時としてマイナスの影響となる可能性もあるかと思いますが、公共空間をつくっていく中で、設計者と行政がいかに同じ方向を向いて事業を進められるかがプロジェクト成功のカギになると感じました。
竣工後の関わり方について
雑木林のつくり方として約 12000 本の苗木をランダムに植栽し、樹木の成長に合わせて間引き等を行っていく考え方で作られているとのお話をいただきました。対談の中で参加者から、竣工後における設計者の関わり方についての質疑があり、竣工後は管理者に委ねる考え方と、何かしらの業務として設計者がその場に関わり続ける考え方がありました。
人の手が入り続けることで良好な環境が維持できる雑木林だからこそ、管理者に委ねるにせよ、設計者がその場に関わり続けるにせよ、植生の成長に合わせた長期的な視点に立った管理計画が非常に重要になると感じました。行政、事業者の担当者が変わっても竣工時からの思想や手法を引き継ぐことができる仕組みや、設計者が関わり続けることのできる関係性の構築が長期的に良好な環境を維持することにつながるのだと思います。
最後に
尾根エリアの見学会中に、近くにいらした老夫婦から「この眺めは素晴らしいでしょう?」と声をかけられました。誇らしげにお話しされていたことがとても印象的でした。利用者の方が「幸せ」や「誇り」を持てる場の創出はランドスケープアーキテクトが目指すべき Well-being の姿の一つであることを強く感じた見学会でした。