【ROAD TO 2023 JLAU が掲げる 3 つのテーマ オンラインセミナー】Landscape Well-being vol.03

「Well-being × Sustainability」〜パーマカルチャーから幸せを掴む〜

実施概要

日 時|令和4年12月12日 (木)
会 場|オンライン(ZOOM ウェビナー)
登壇者|四井真治氏(パーマカルチャーデザイナー いのちの仕組み暮らし研究家)、忽那裕樹氏(JLAU 副会長 2025 年日本国政博覧会特別委員長 株式会社 E-DSIGN 代表取締役)、武田重昭氏(JLAU 会員 大阪公立大学大学院農学研究科 准教授)、鈴木裕治氏(JLAU 常任理事 事業セミナー委員長 studio on site 取締役パートナー)

「Well-Being」と「Landscape」で次の可能性やまちづくり暮らし方などテーマに、それらを深めていくセミナーを続けています。1 回目は「ウェルビーイングを学ぶ」をテーマにWell-Beingの研究をされている東京都市大学の坂倉先生に、アジアや欧米での在り方や評価の視点を含め お話ししいただきました。地域社会の中で役割を見つけるというテーマのもと、大阪府大東市でやって いる morineki での官民連携のプロジェクトに携わっている入江さんや、千葉県の柏の葉アーバンデザインセンターの三牧さんに登壇いただき、地域社会の中で公園やオープンスペースを共有しながらそれぞれの人が自分の役割が見つけられるようなプロジェクトの在り方、プロセスの在り方がすごく大切であると共有させていただきました。

2回目はコミュニティデザイナーの山崎亮さんに登場いただき、ランドスケープのベースであるセントラ ルパークなど都市の中に公園をつくって関わっていくことの思想的な部分のお話しをいただき、その後、 関西大学の木下先生、泉大津市の市長である南出さんに登壇いただき、経済の中で新しい人間関係を構 築すること、心のインフラみたいなものをどうやって社会の中に構築していくのかという点や、自分の 役割が見つかるような、公園の中で関係性を構築するには、どういうデザイン・人の仕込みをつくってい くか。「自分の身体は自分で整えていく」そういうことを可能にできる都市とは。という議論をさせてい ただきました。

そして3回目の本日は、四井真治さんによりパーマカルチャーというお話し、農業にとどまらず「暮ら し」をどう捉えるかというのが重要な視点であるということを事前に聞いているので、その辺りを含め て、人と環境が共にあって美しい風景とは何か、またどのように実現していくのか、それらがどうウェル ビーイングに繋がっていくのかという点に着目しながらお話しをお聞きできればと思っています。

session1 「違う観点からの Well-being」:四井氏

八ヶ岳の麓に引っ越して家族 4 人だけで、いかに「持続可能な暮らし」を組み立てることができるのか という生活実験を行ってきました。社会の最小単位は個人かもしれないですが、持続可能な社会の最小 単位は、子孫が残ることが重要な点で「家族」であると考えていて、そこに生活文化や社会全体の文化が あり、持続可能な社会の仕組みがあり、すべて持続可能な大きな仕組みである自然が土台にあることが 持続可能な我々の社会や暮らしがあると考えています。その上でその最小単位である家族で、いかに持 続可能な暮らしをつくっていけるのか、パーマカルチャーデザインを用いて 16 年間実験してきました。

今日のセミナーテーマはウェルビーイングやサステナビリティということですが、まさにこの暮らしで ウェルビーイングを感じてきており、どこかにレジャーに出かけるよりも自邸にいる方が楽しいし、や ることや課題を感じて取り組むこと、あるいは家族との時間を大切にしたいと考えることが多かったの で、今日はその辺りのお話しや生活で気づいたことをお話しできればと考えています。

●パーマカルチャーとは

1970 年代にオーストラリアのタスマニア大学の教授だったビル・モリソンがゼミ学生だったデビット・ ホルグレンと共に体系化した持続可能な生活システムをつくりだす体系を指し、パーマネント (permanent:永久の)+アグリカルチャー(agriculture:農業)を掛け合わせた造語で、同時に永続的 な文化(culture)へと発展していった考え方です。
昨今 SDGs の考え方が浸透し、17 のゴールをいかに目指すかということが言われていますが、我々の暮 らしが BIOSPIERE(生態系)を土台にしてその上に社会があり、社会は経済を動かしているという構造 で、SDGs の各ゴールがどこに当てはまるのかをいうのを明確に表しているウェディングケーキモデル で説明されることが意外に少ないと感じています。しかし、やっと国連の動きによって現代社会もパー マカルチャー的に考えられるようになったなということを実感しています。

●プロジェクト紹介

2005 年に開催された愛知万博内のレストランの仕組みを パーマカルチャーデザインしたのが最初の仕事でした。120 席ぐらいのレストランで調理されるオーガニック食材 の残飯や生ごみをミミズコンポストで堆肥化し、できた堆 肥は併設されるパーマカルチャーガーデンで土づくりに 使い、排水は今日もお話しするバイオジルフィルターで浄 化して、生き物たちが利用することで、農園が豊かになる ような仕組みをつくり上げていきました。それらはすべて 半年前からタッフを募り、ワークショップで完成させました。バイオジオフィルターを通した水は最終 的には渓流魚が住めるような澄んだ水質になり、その水はビオトープに溜まり雨水タンクに汲み上げられ、最下流の水田で利用されるという水の循環が生まれる仕組みになっています。


その万博内のレストランを万博閉会後に、ある会社が移設したというオファーがあり山中湖にそれをつ くることになった際には、移設ではなくて一からデザインしました。そこもレストランがあり、畑を中心 としたコテージがあり、施設から出る生ごみや排泄物を全部循環するかたちにデザインしています。限 界集落の再生や、今は宮城県石巻市の自然学校のデザインにも携わり、千葉県木更津のクルックフィー ルズは 30ha の広さですが、農場や付帯するすべての施設がすべてこの中で循環する仕組みをデザインし ています。


その後手がけたクルックフィールズはスタッフと共に手づくりでつくり上げていきました。クルックフィールズ内のバ イオジオフィルターは全長 130 m で、ここでは草だけでなく樹木も使った水の浄化を行っています。30ha の大きなクルックフィールズのような施設も、小さな暮らしではあるものの家族 4 人の持続可能な生活 実験の結果、それを 30ha の規模にスケールアップしても十分耐えうる仕組みだということを証明できた と実感しています。最小単位でつくり上げてきたことが様々なことに役立ち、そこには持続可能な仕組 みをつくるというだけではなくて、本当の豊かさや楽しさや奥深さがあり、それに何よりも気づきの中 で意味があったと思うことは、本当の豊かさの基にある「命の仕組みとは何か」ということを解明できた ことです。単純にいうと持続可能な仕組みそのものなのではないかということです。

●八ヶ岳での暮らし

築130 年の古民家をコツコツとリノベしていって、ここで もパーマカルチャーの仕組みをつくり上げたのですが、こ こでの経験が愛知万博で活きたと実感しています。
580坪の雑木林の敷地に建坪 16 坪の小さな家があり、引っ 越してまず初めに南側の雑木林の開墾から着手しました。 南米を旅した際にも目にし、日本でも暮らしの中にたくさ ん石積みの文化があることに感心したことから、石垣を使って段々畑にしました。

家の仕組みはいろいろありますが、例えば畑は暮らしで出る生ゴミを堆肥小屋で堆肥にし、排泄物もコ ンポストトイレで堆肥にします。排水はこの家でもバイオジオフィルターで土壌の中の微生物の働き、 また植物によって養分を吸収して浄化する仕組みをつくっています。エネルギーは、暖房は基本的に薪 ストーブを使い、給湯は薪ボイラーや太陽熱温水器を使っています。水は井戸も水道もきています。そして家の北側に広大な竹林がありそこを借りることができたので、今ここを農園にしています。そこ を僕が暮らすことによってここにあるすべての栄養やエネルギーなどの資源が、この農園に集中するよ うな仕組みをデザインして、暮らすことによって持続可能になっていくように、またより環境が豊かに なるような仕組みをデザインしています。

パーマカルチャーはオーストラリアで生まれたこともあり、海外の事例ばかりが取り入れられて西洋チ ックなデザインが多く、やっぱり日本国内に日本のパーマカルチャーの事例をつくれたらなという思い があり、八ヶ岳の日本家屋を活かしてかたちにしてきました。自宅の周りは樹高 18 m 以上あるクヌギやコナラ、ヤマザクラやアカシデといっ た雑木林で、家を増築する際もなるべく木を切らずに暮らしの仕組みをつくっていきました。敷地にはブラックベリーをはじめ、環境にあったなるべく食べられる樹種を植えています。キャノピーの中に家があるのですが、近所の方が訪れると、どうしてここだけこんなに涼しいのかと驚くくらい、樹木の仕組みによって涼しい環境がつくられ、冬は落葉して太陽の入射角度も浅くなるの で、周りも抜けて家の中もすごく明るい。また天気の良い日は薪ストーブがいらな いほど暖かい状況になります。

また、日本には縁側とか軒下の文化とかがあるのでそんな日本の暮らしを実践するべく、意識して外とも中ともつかないような空間の外中部屋と呼んでいる空間をつくり、釜戸も畑と家の中を繋ぐように設置していて、家の中にキッチンもありますが、外と中を繋ぐ台所ということで外釜戸としてガーデンキッチンをつくりました。

軒下は昔よりいろいろな物を干したりしますが、縁側は寛ぐ場所でもあり作業する場所でもあるので、 家族で収穫してきた物を作業したりしています。この空間は南側に位置し、夏は程よい木陰をつくり冬 は落葉して陽が当たる空間になっていて、友人が来た時や休みの日にはこのガーデンキッチンで調理し たり、テーブルを出して食事を取ったりしています。新緑の時期には果樹が中心なので葉っぱが透けて 緑色の空間になり、本当に良い木陰ができます。釜戸も当時環境に関心がある人たちがつくり始めていたアメリカ製のロケットストーブではなく、同じ原理で動くならアメリカから持ってきた文化でなくて日本の釜戸の方がいいと外釜戸をつくり、レンガでつくる方法とかワークショップをやり始めました。また、暮らしにはいろいろな道具が必要に なってくるのですが、例えば釜戸に必要な羽釜や、焚き木や薪を運ぶキャリーといった、暮らしにまつわる道具のデザインも自身でするようになりました。

子供たちは小さな頃から外釜戸で火を扱っていて、暮らしの中でいろんなことを学び、自然の中でいろ いろな刺激を受けて育ってきた実感があります。本当に教育が自然発生しているということです。暮らしの中で土をつくり、畑に種をまき、キノコの保田木を打ち、味噌や醤油を仕込み…と毎日が仕込みなん ですよね。そうやっていくと季節季節にいろいろなものが収穫でき、それらを釜戸で料理したり、石窯もあるのでアカマツの林で採れた薪木でピザを焼いたり、様々なオーブン料理を楽しんでいます。

また、ここでもかれこれもう 12 年バイオジオフィルターでキッチンの排水を処理しています。基本的に は簡単な仕組みで、合併浄化槽みたいなもので前処理してそこで固形物や油分みたいものをある程度分 解して、分解しないまま通してしまうと敷かれた土剤の中で有機物が溜まって根詰まりを起こしてしま うので、前処理層を通してそれからバイオジオフィルターに通すようにしています。

バイオジオフィルターには多孔質の砂利を敷き、そこに微生物が住み、水辺の植物も植えています。水辺 の植物もヤツガシラ、セリ、クレソン、ショウブ、クウシンサイなど食べられるものや暮らしの中で利用 するものを植えて、それらが成長する上で栄養分を吸収し、微生物が排水物中の有機物を分解し無機物 になり吸収しやすいかたちになったところでこの水辺の植物が栄養分を吸収して栄養を回復できる仕組 みになっています。流れ出た水は魚が住めるような水質になり、そしてその水はビオトープに湛えられ、 そこではイグサやスイレンなどが植わっていて、最下層は水が本当にキレイなのでワサビが栽培できる ほどになります。水辺の環境ができると、外部から生き物を連れて来なくてもトンボが来て繁殖してヤゴが生まれたり、 本当にたくさんのカエルが来てくれたりします。生き物は本当にたくましくて、適した環境ができると 入って来てくれる。生き物が入ってくると、トンボもカエルも肉食の性質があるので、害虫を食べてくれ るなど、生態系をコントロールしてくれるわけなんですよね。

タイのチェンマイのエコビレッジをデザインした時に、人間は水を運んでくる性質があると気づいたん ですが、排水管で水を引っ張ってきて、本来だったら植物の根が届かないような 10m 以上の地下から地 下水をくみ上げて暮らすなど、人がいるということは水がそこにもたらされる。タイの乾季は地面に 2-3 cm のヒビが入るくらい乾燥した土地になるので作物が栽培できずどうしようかと考えていた時に、バイ オジオフィルターを畑に利用することによって乾季の水を湛える、人が暮らすことによって水辺環境が できるデザインをしました。まさに我が家もこうやって暮らすことがこの傾斜地の乾燥地に水辺ができ、 いろいろな生き物が入ることで本来なかった環境の多様性ができ、そこに住む肉食の生き物が増えて、 その下に草食の生き物がいたり微生物がいたり、生態系の頂点の下には生き物がたくさんいると言える と思いますが、そういうことが僕らが暮らしたことがきっかけになって、増えた実感できました。

生ごみや排泄物、暮らしで集まる有機物はみんな堆肥小屋で堆肥化するようにしています。堆肥小屋も なるべく在来工法でつくるようにして、屋根は鉄平石でふいたりとなるべく土に還る素材でつくるよう に心がけています。また、雨水は雨水タンクがあり、作業小屋の屋根の水を集めて温室で利用していま す。アクアポニックスといってドジョウを養殖していて、水が汚れれば奥にある太陽光パネルで汲み上 げて上にあるポットに注ぎ込むことによって、植えられているクウシンサイがバイオジオフィルターと 同じように栄養を吸収して水がキレイになる。そうやってドジョウも飼育でき野菜も栽培できるという 仕組みを入れています。ニワトリは夜は籠の中に入れているので、なるべく完熟堆肥の上暮らせるように籠を持ち上げられるよ うにしていて、必要な時は糞が常に堆肥に入るようにしています。ヤギも堆肥小屋で寝ますが、ニワトリやヤギが排泄物を出しても、すぐに堆肥の中の微生物が吸収して分解されるので臭わないんです。糞を 片付ける手間がない上にもう一つメリットがあって、微生物が発酵して良い微生物が増える場所は、動 物の病気が入ってきてもすぐに駆逐されるんです。さらに堆肥は 40°以上 50°になり、寒い時期は動物 たちは堆肥が暖かいのを知っているのでずっとここで過ごしています。そうして常にいろいろな生き物 が共存している景色がここにはあります。

子供たちはいつも生き物の存在を感じながら暮らしていて、外でご飯食べると食べ残しとか落としたも のをニワトリが食べてくれるような仕組みがあったり、畑のキャベツについた青虫とかも殺して土に落 とすのではなく、ニワトリに食べさせる事によってそれが結果卵になったり、ニワトリそのものになっ たり、命が循環するように小さなことでさえも心掛けながら利用しています。こういう風に常に生き物 に利用されていくような仕組みや、いかに命が繋がっていくかということを心がけて暮らしています。

また堆肥小屋では、生ごみや排泄物の他に、敷地内で死んでしまった生き物も堆肥葬とよんで埋葬し堆 肥にかえしています。一緒に暮らしていた生き物の死は悲しいですが、それらはまた僕らの暮らしの中 で畑の作物になったり、周辺の生き物になったり木々の枝や葉っぱになったり、その末には僕らの体に なっているわけなんですよね。そうやって命は繋がっていっていて、暮らすことによってエネルギーが 集まりそこが豊かになっていっていて命の繋がりもできている。それによって僕らの暮らしが持続可能 になっているということを感じた時に、生き物の死は悲しいけれど、実はいつもいるという風に感じら れるようになりました。

TBSの世界不思議発見に出演する機会があり、腸内フローラ特集で家族の腸内フローラを調べてもらっ たことがあったんですが、腸内細菌も変わったんです。一般的には善玉菌と日和見菌と悪玉菌の割合は 2 対 7 対 1 ですが、僕ら家族はみんなそれぞれ 5 割が善玉菌という割合になりました。これもやはり堆肥 づくりや、自分たちで育てたものを食べるとか、多様性のある環境をつくるということが、腸内フローラ をも変えたということが言えるのではないかということが調査から分かったんですね。

この生活をしていると「暮らしの景色」が生まれていきます。 麦の脱穀作業を両親が手伝いに来てくれた際の作業風景や、敷地に落ちるたくさんの落ち葉や刈草などを堆肥ワークというものに入れてそれを転々と一定距離で設置し行くのですが、それも環境アートになる。作業効率からそのようにしていますが、アートになりさらに堆肥として循環していく。作業に使う道具もなるべく古い道具を使うようにしていて、壊れればまた修理したり、なければつくったりという 風にして、家で持続可能な仕組みができるようにしています。

また、引っ越してから毎年、土をサンプリングしていいたところ、5 年で明らかに腐食が増え黒くなっていった 様子を見て取れ、これはまさに僕たちが住むことによって土ができるということが証明されと思っています。本当にここの褐色森林度の痩せた土地が、暮らしの中でできた堆肥を少しずつ入れていくことで 段々と肥えていき、生き物や根付き作物が育つようになっていったんですよね。そうやって豊かな景色、 いろいろな色、いろいろな植物、いろいろな作物が育つ景色になっていきました。

子供たちはいろいろなことを手伝ってくれていて、その過程で教えなくても上手に作業をこなしてくれ ます。学校で教えなくても必要なことは自然の中で学ぶということができているので、教育が自然発生 すると僕は感じています。学校は家で学ぶことを補完する場所でしかなく、学ぶとは暮らしの中で身に つけていくことだと思うんですよね。そ集めた落ち葉が堆肥になり、農園や竹林になって痩せてしまっ た土地を肥やしていき、生き物が増え作物ができといろいろなことに繋がっていきます。周りの林はきのこが取れたり、養蜂もやっている。北側の竹林を広げた際に切った竹は、薪ボイラーに利 用したりチッパーにかけて舗装に使ったりして、管理し開墾していき、竹害と呼ばれる竹をいろいろな ものに利用できるように試みてきました。写真を撮っていて思うことが、いつも家族が同じ場所を見るということが暮らしの中であり、それもす ごく大きなことではないかなと思っています。さらに、いろいろな作業を日々行う中で、体力や知力、 様々な暮らしの勘のようなものがついていきます。そうやって手作りでいろいろなことをやってきた結 果、エネルギーも一般家庭の消費エネルギーに比べて、冷房:使わない(-2.9%)、暖房:薪(-26.8%)、 給湯:太陽光と薪(-27.7%)、厨房:たまに薪(-?%)、照明:(-?%)など、不明なものを含めなくて も-57.4%のエネルギーを削減できている状況です。

●まとめ

パーマカルチャーというと、とかく農業にスポットが当たりがちではありますが、暮らすということは いろいろな道具が必要になり、何か使えなくなったり壊れたり、クワが折れたり歯や柄をつけ直す必要 が起こりますが、そういう時に新しい道具を買うのではなく、直して使うということが持続可能な生活 には必要だと考えています。そして古い道具を使うということも意識しています。


ここまで暮らしのことを話してきましたが、今日のテーマであるウェルビーイングを追求する時に、「Well-Beingとはその人が求める生き方とか意味」というものが充実することだと思っていますが、 そう考えていくと例えば人によってはお金が稼げればいいとか、高層マンションに住んでその人なりの 満足があればいいとか、それぞれの価値観によってWell-Beingは変わってくると思うんですけど、 それでもすべての人に共通することは「生きる」ということだと考えています。そして本当の意味での 「暮らす」ということや「文化とは何か」「社会とは何か」「命とは何か」ということを考えた時に、すべ ての人に共通することは「40 億年続く持続可能な仕組み」ということで、命は 40 億年前にこの地球上に 生まれて 40 億年続いてきました。それは持続可能な仕組みとして存在したからなんですよね。


だからこそ、暮らすことが環境を壊すのではなく、環境を豊かにする仕組みをつくらなければいけない。 現代の我々の生活は環境壊すことをやっていて、子供たちにエコロジーとは何か聞かれたら、人というのは環境壊す存在なので、なるべく地球に優しく暮らすことが大切だと伝えますよね。でも僕はそうは 言いたくないです。なぜかと言うと、人の存在を否定することになるからです。しかし、今の我が家のような暮らし方をすれば、人間も環境を壊すのではなくて環境を豊かにする存在になれるのではないかと気づくことができました。現代の暮らしは環境を確実に壊していて、気候変動や生物多様 性も失われていっています。しかし僕らのような暮らしを多くの人がやり始めれば、実はそこから環境を豊かにしていくことができるのではないかと考えています。


今日お話したように、人が暮らすことによって水やいろいろな資源が集まり、それを他のいろいろな生 き物が利用できる仕組みにすることによって循環していく。そうして様々な生き物が増えていくことを暮らしのデザイン、ランドスケープデザインしていくことを多くの人や多くの施設がやっていけば、実 はそれが地球を壊すのではなく、豊かにしていくのではないかなと考えます。そうすると、破壊の未来や続かない未来ではなくて、持続可能な本当の未来の暮らしが生まれるのではないかと思っています。日々の家族の暮らしの行いが土を作り、水をめぐらせ、生物多様性を増やしていき豊かさが蓄積していって持続可能な仕組みになっていくことを常に実感してきました。それによって本当の意味で豊かさを感じ、日々子供たちの成長を感じ、いろいろな気づきがあり、生きる実感を感じてきました。


パーマカルチャーには多様性を考えるということがあり、本当の意味で「暮らす」という中には、農作業 があります。農的暮らしという表現がありますが、暮らしには農作業があってそれによって循環してい て、食べ物や暮らしに必要なものが生産でき、物を考えて進めていく過程で知力がついたり、それを行う ための体力がついたりする。そうやって暮らすことが家族の文化を生み出して生活文化が形成されてい き、それがより持続可能な仕組みになっていったり、子供たちと一緒にやるということは、子供たちに大 人がいろいろなことを教え、いろいろな環境の中でいろいろなことを感じたり気づいたりすることによ って、教育が自然発生していくということです。学校で決められたことを教えられるのではなくて、その 家族のその子供たちにあった教育が生まれてくる。そして環境を豊かにすることは、暮らすことによっ て多機能性が生まれている。なぜなら地球に起こっているすべてのことは、繋がりの仕組みの中に成り 立っているからです。
様々な価値観の中でWell-Beingがありますが、すべての人に共通する究極のWell-Beingはまさに地球の上にある「暮らし」なんではないかと僕は考えています。

session2 「Well-being」とランドスケープデザイン

【プロジェクト紹介/登計トレイル「香りの道」セラピーロード:鈴木】

対象地がある奥多摩町は、東京の中心から 1 時間半ほどの距離で面積自体は 22553ha と広大ですが 21167ha が森林で、面積の 94%が森林で占めています。人口が 4526 人ですが高齢化率が 50%と非常に 高く、都平均の 22.6%の倍に当たります。94%の森林のうち人工林が 49%でスギ 64%、ヒノキ 25%。そ の他 11%とほぼほぼ針葉樹林の森と化している状態です。
森林セラピー基地といって、森の中の癒しの効果や病気の予防効果が科学的に認められたお墨付きの森 を指し、2006 年から認定が始まり今では 63 箇所ぐらいあるそうです。森は迷いやすい、怖い、急勾配で 疲れるというようなマイナスなイメージもありますが、セラピーロードはほとんどが緩やかな勾配で明 るい森である必要があり、健康のために森に入るという新しい森の楽しみ方を提供するものですが、依 頼があった際に、ここにどうやって明るい場所をつくったらいいのか、あるいは斜面もほぼ 45°の非常 にきつい斜面の中でどうやって緩やかな勾配をつくるのか非常に悩みました。


まず登計の集落の方々にヒアリングしたところ、高齢化でほとんどが老人なんですが、みんなやっぱり 森の中に入っていかず、狭い平地の中の家の中だけで過ごしている。外に出ると急勾配の場所だらけな ので家の中にずっといるみたいなところがあり、そういった住民の方々に、せっかくあんなに森が充実 している奥多摩なので、その森にどうやって連れて行けるのかいうところを徹底的にスタディしたらいいんではないかと考えを巡らせました。


森林セラピーには化学的に証明する必要があるエビデンスの基準があり、認定されるまでにフィールド 整理実験の実施と結果報告の必要があって、実際に治験者を呼んで都会で過ごした時とここの森で過ご した時の血中酸素濃度の変化を比べて数値が上がった場合にセラピーとしての効果があるということが 証明されれば認定されるということになります。基準自体も 300ha 以上ないとだめとか周りに人工物が あってはいけないとかいろいろあるんですが、この今回セラピーロードとして認定されるために、セラ ピーロードの設定状況や施設付近の森林の整備、休憩・体験施設等の設備に身障者等にも配慮された整備をどう整理するかということでスタディしました。トレイルというと基本歩くだけが目的で、目的地に着いてそこで眺めたり過ごしたりするというのが一 般的ですが、違うそうじゃないだろうと考えて。やっぱり歩いている最中も休憩したり、シーンが変わる ごとにちゃんと居場所があるということで、「みる」「きく」「さわる」「あるく」「はなす」「たべる」「体 験する」という風に五感で感じる場所としてデザインし、基本構想でうたいました。

奥多摩駅からセラピーロードまで、集落の中を通って川をまたいで行きますが、十分に歩いて行ける距 離なので、東京の中心から奥多摩に登山で来る観光客の人もたくさんいて、登山目的じゃなくて、森林に 癒されに来たい、森林浴したい、歩きたい、ハイキングしたい、散歩したという人も来られるということで、こういう近場の場所で展開をしています。 駅からの道すがらの集落は、日常的な家が斜面に並んで いるような状況で、集落の道も至って普通の道路で、そういった上に山々が控えていて、その山の上にど うやって人を引き入れていくかというところで考えを進めています。
平面図上ではこの針葉樹の森を、さらに悪いことに下斜面で陽もまったくあたらないところに、どうや って明るい森をつくるんだという状態でしたが、実際のスギ林の中は、奥多摩には森林救助隊がいて、間 伐が結構行われていて、対象地は下草もちゃんと生えているような状況でした。北斜面でも、陽が斜めに 入ってくる様子を見ると、スギは下枝が非常に高いので、何だかんだいっても森の中でも明るく、人工林 の場所を再生して人の居場所としてデザインしていけるといいのではないかと考えました。

一方で工事自体は非常に難航しました。山の上だったので、モノレー ルみたいなものを使って資材を上に上げて。さらにスギ林の中の獣道 みたいなものが唯一あるところに等高線に沿って木を切るようなか たちでマーキングをしていって。木を切るとこの斜面がどれだけ急勾 配か、より分かると思うんですよね。ここに人が歩く道をつくるとい うのは、結局は山を削るということなんですよね。幸い軟岩でできた山だったので、そんなに崩れる心配がな い状況ではあったのは非常に助かったのですが、人の背丈 ほど削ったとしてもできる平場はもうほんの少しで。そん な中で切った木を、当時は奥多摩に森林組合があり、製材 所で製材してもらって奥多摩で取れた地元産のスギを利 用して擁壁などをつくっていきました。法面も基本はコン クリートなどで擁壁をつくりますが、林野庁の基準も用いながら、木は朽ちるけれどもメンテナンスを していけばもつという考えのもとで、こういった土木構造物があるのでそういったものを利用して道を作っています。


セラピーロードの条件が「人が2人並んで歩ける」「会話をしながら歩ける」なので、木を削って、その木で擁壁をつくって、条件を満たす平場をつくっていきました。さらに居場所が必要なところは土を削 るだけではなく、ピンファンデーションで斜面に張り出しで軽量鉄骨で骨組みを組みました。歩道から 合わせても 4m 程度の平場ですが、この軽量鉄骨を用いたおかげで既存のスギなどが計画の中に生えて いても間に植わっているようにすれば、木も残しつつ、場所もつくれるようになります。

入口を入って最初にセラピー基地があり、プログラムなども展開さるので、ここでツアー概要を話した り血中酸素濃度を測ったりする建築の基地があって、上に登っていくと奥多摩の町並みを見晴らせる展望テラスを尾根を一周するようなかたちで平場をつくり、土留の擁壁を木でつくって東屋もつくりなが ら眺望を得られる場所をつくっていきました。勾配もバリアフリーとはいえないものの 10%までにして 葛折りで道を通して、何とかここまで登ってくるとあとは平らな道が続いているというかたちです。そこからスギ林の中に入ってゆき、伐採したスギ丸太の擁壁の横を歩いて 行くと、みんな会話をしながら歩けるので、もうそれだけでトレイルとは ちょっと違う歩き方ができる。さらに歩いて行った先には土木構造物の設 えがあり、木の擁壁も含めてそれらを家具として扱う。張り出したデッキもリビングルームとして平場をつくって居場所とする。さらに奥に入る と、セラピー基地としてまたちょっと活動ができるリビングルームがあって外が見えたり、暖炉があって寒い時でも居られたりレクチャーができる 場所があったり。さらにその先へ進む際に谷をまたぐ時は、道も舗装せず に手すりだけつけて流れをまたいでもらい、途中には腕風呂と呼んでい る、手を水につけることでクールダウンだけでなく血中酸素濃度も下がり セラピーの癒し効果があるようなものも設置しています。また、尾根の広場と呼んでいるところは、敷地内で唯一平場が取れるところだったのでヨガなどをできるスペースをつくったりしています。


観光客に向けてつくって欲しいという町の要望ではありましたが、モノレールのようなもので車椅子も 坂の上にあげられるようするなど高齢の方にも配慮して、近くに住む人たちが森の中に入っていける、 そういう場所を提供できればという思いでつくったプロジェクトです。

【「Well-being」とランドスケープとの関係について:武田】

一つは四井さんのお話にもありましたが「日本らしい自然との付き合い方」とか「日本らしいパーマカ ルチャー、ウェルビーイングのあり方」みたいなことが少し気になっています。来年は都市公園制度でき て 150 周年であり、日本の近代ランドスケープデザインの一番最初が太政官布達というもので、公園を デザインしたというよりはむしろ、それまであった物見遊山できるような場所を公園にしたことが、ま ず素晴らしいなと感じています。こういう暮らしというのも、そもそもウェルビーイングがあって、自然 と共生した暮らしがあって、そこに遊びに行く、そこでリラックスする。そういうことがそもそも日本の 文化の中にはあったということが、今これから新しくつくるものやパーマカルチャーを考えていく中で、 どういう風に捉えればいいのかなということをお伺いしてみたいなと思ったのが 1 点目です 。


2 つめが状態のデザインで、WHO が定義する健康の定義とい うのは、基本的に「問題がない」ことではなく、「満たされた 状態である」ということが「健康」であるされていて、我々は どうしてもこのウェルビーングを考える時には、ある環境に 置かれた主体の変化として捉えがちですけれども、ランドス ケープデザインを考えると、主体は変わらないものとして環 境だけが変化するデザインの対象考えがちですが、実は主体と環境とは「ひとつながりの系」になってい て、主体も環境もそれぞれが変化するっていうことを、どうデザインできるかが重要だと考えています。 四井さんのお話にもありましたが、暮らしの中で人間と環境と「どうやってひとつながりに考えて生き るのか」ということについて、もう少しお伺いしてみたいなと思ったのが 2 つめです。

3つめが「Well-Beingとランドスケープをどう考えるか」 です。ハンコックというカナダのパブリックヘルスの専門家が書いた「ヒューマンエコシステム」という図を訳していくと、図の一番中央にあるのが個人で、その周りにある ファミリーというのが持続可能な最小単位と先ほど四井さん もおっしゃっていましたが、この図でも表現されていて、さらにその周囲にコミュニティがあり、一番広いところにカルチャーがあるという図になっています。


個人の中には「ボディ」と「スピリット」と「マインド」というのがあって、まさにこの辺がWell-Beingだと思いますが、それらがあってファミリーとコミュニティの間ぐらいに、例えば左下から人間 の生物学的な要素、個人の生活習慣、右に行くと心理的・社会的・経済的な環境の話、それから右下が物 理的な環境というのを、それぞれどう繋ぐのかということです。左側がシックケアシステムとなってい て病理をどうやってケアしていくのか。それから上がライフスタイルの話で、個人の生活習慣とか心理 的・社会的環境の話、それから農作業とか作業等、右側がワークとなっていて物理的環境に対する働きか けというのがあって、その周りに人間がつくる環境(Human-Made Environment)や生態系(Biosphere)、 文化(Culture)があるということになっています。


「ヒューマンエコシステム」の図を今回のランドスケープや JLAU がやっている一連のセミナ ーに寄せて無理矢理置き換えてみるとどうなるかっていうふうに考えていくと、中央に個人のためのウェルビーイング を考えるフェーズがあり、その周りにはの社会とか私たちを取り巻 く環境があって。これはグリーンインフラの部分で対応していると ころなのかなと思っいます。さらに外側には風土とかそういうもの があり、ランドスケープカルチャーをどう考えているかという風な 広がりがあるんですが、これらは分けて考えることなのではなく、 そこにどんな一連のつながりを見出せるのか、時間的なつながりだったり今日のお話にもあった持続可 能性のつながりだったり、それからこれらを暮らしとして一つのものにどう関連づけていくかっだった り。この辺りの話も後ほどのディスカッションの論点の参考になればと思ってつくったものです。

●ディスカッション

忽那:
すべてが物語になっていて切れ目のない関係性が暮らしの中に渦巻いている様子が伝わりました。 お子さんの成長の姿を見るだけでも、身体だけでなく自分の役割を見つけてやっている姿が、切れ 目のない連続的な環境で育った子どもたちの本当に豊かな暮らしに繋がっていると感動しました。

Well-Beingを考える時に、それぞれのWell-Beingがあっていいと思っていて、「より良い状態になるということを自分で担保できるかどうか」という話だと思っていて、今日のお話でも、人間が都市をつくることは環境を破壊しているのだけどそうは言いたくないとか、水とか土の話 が感動的でしたけど環境を豊かにする、そしてその豊かさは蓄積するというお話がメッセージとし てとても感動しました。

Well-Beingのアンケートなどいろいろ見る機会があり、幸せに感じていない、幸せな状態だと 思っていない人が増えているというのが多い状態は、家族あるいは社会の中で自分たちが主体的に その循環・物語の中に組み込まれていないから、自分がやっていることは大きな思想として破壊の対 象の生活をしているのかということが遠因してしまうのかと、今日のお話を聞いて思った次第です。 その辺りはいかがでしょうか?幸せと感じる状態というのは、いかに生まれるものなのか?その辺 りを社会まで広げた感覚で四井さんからお話をお聞かせください。

四井:
幸せというのは、皆さん言われるように、やはりいろいろな人たちのそれぞれの価値観で決まって くるものだと思いますが、やはり今の現代は、ある意味ゆがんだ資本主義の上に価値観があって、 それが行き過ぎて自然と繋がる暮らしがなくなってきているが一番の原因だと思うんですよね。

江戸時代の武家にも、しんのみ畑という畑があり、そういう身分の方でも暮らしの中に農があった んです。暮らしというのは農も含めてすべてが暮らしのはずが、役割分担が個に発達していったり、 資本主義がはたらいてしまって、本来ある暮らしに使う時間とお金を稼ぐための時間というのがだ んだんお金を稼ぐ時間に圧迫されていってしまい、暮らしの時間をなるべく省くことが良いとされてしまったのが現代だと思うんです。でもその結果何が生まれたのかというと、「本当の豊かさ」と いうものがだんだん感じられなくなってきているのではないかと。幸せではなくなったり、本来の生き物としての働きがなくなってしまうと、例えば結婚しなくなっていったり、本当の意味での教育が できなくなっていったり、いろいろな歪みを生んでしまったと思うんですよね。さらにお金ということで判断していくと、ブラックな企業で働くことになったり、給料が上がらなくなったり、いろいろ なことが起こっていると思います。

日本の第三次産業の割合が今7割ですが、それは行く末が歪んだ結果、国のエコシステム自体もそういう風になっていて、それが住んでいる国民一人一人の幸せをどう感じさせているのかというところにもかなり大きく関わっていると思います。本当に多種多様でいろいろな方向に原因があり、でも大元の一番下の根っこの部分が何かというと、やっぱり「暮らし」だと思います。

忽那:
切っても切れない全部の物語の一部に自分がなっているという話がなくなってきて、近代はお金 を稼ぐために全部セグメントしてきている。分けて捉えるということを分かるということも一つ 近代の成果ではあると思いますが、四井さんのお話を聞いていると、分かるということはその関連 のことがずっと物語として繋がってきた時に、そのものの意味とか命の意味というのが見え隠れして、何となく感覚としてくるものだという話をお聞きして、非常に感動しました。

今後四井さんの暮らしのようなものを広げていこうと思う時に、環境のかたちみたいなことと設計をやって、はいどうぞ使ってくださいというような禁止の行為ばかりのアクティビティ(=動き) とかそういうものではなくて、自分たちの社会の仕組みや地域の仕組みのかたちと、自分たちが活動 して人間関係が増えていくような仕組み全部をデザインして循環するようなつくり方を、公園とか 社会が共有する空間に転用できないかなと今日思ったところです。

四井:
学校の教育自体が算数・国語・社会みたいな感じで分かれているが、本来暮らしとは一塊で、その 中から学んでいく中で、理科的に考えたり国語的に考えたりということを本人が分析していくも のだと思うんです。でも今の学校や社会はセグメントで分かれていて、余計に総合的なものでなく なっていっていますよね。いろいろな暮らしに対して潜在的に求めるものがあると思いますが、今のサラリーマン社会でそれを実践できる生活環境がないのが現状だと思います。そうすると、どこ にそれらを落とし込んでいくかというと、やっぱり公園とか、先ほどの奥多摩の事例のような場所 とか、やっぱり学校だと思うんです。

軽井沢の風越学園のプロジェクトに関わっていて、学校をパーマカルチャー化しようとしています。 畑をつくったり、水の仕組みをつくったり、石窯のガーデンキッチンをつくったり。来年は堆肥カフ ェといって父兄の方たちが子供たちを送り迎えする時に堆肥を持ってきてもらって、みんなで堆肥 をつくり畑をつくることを、親子あるいは先生たちと一緒にやることによって、学校が暮らしのプラ ットフォームになって、そこから教育が自然発生するかたちをつくろうとしています。そうするとや っていると子どもたちの反応が全然違うんですよね。これは社会に何が 一番何が足りてないのかと 考えると、やはり「暮らし」なんですよね。だから今後、これをどの場所に落とし込んでいくのかっ ていうことが、これから都市においては最も重要な課題なんじゃないかなと思います。

鈴木:
江戸時代にはすべてが循環する社会が、あれだけの人口の中でちゃんとできていましたよね。 町の中でも長屋に住んでいた庶民の人たちの糞尿などを農家の人たちが引き取って、それを畑に まいてという循環のシステムがあり。四井さんのお話の中ですごいなと思ったのが、道具を直す工 房みたいなところがあって様々なものを直して使っている。江戸時代の職人さんもものを新しく つくるというよりは、ものをいかに直して再利用するかということをやっていたんですよね。 だからやっぱり新しく日本が近代化する中で、建物もスクラップアンドビルドでどんどん新しい ものつくって、それを捨ててという、循環を閉ざしているようなことをやることによって豊かさを 求めていったツケが、どんどん人々の心に病的にのしあがってきて、やっぱりそうではないんじゃ ないかと。やはり四井さんのような暮らしで、子どもたちも喜びを感じながら、心の豊かさを感じ ながら育っていくというところにきているんだろうなと感じています。

忽那:
四井さんは、器用なんですか?できないことってないんですか?先ほどから続いている話で…

四井:
よく、四井さんだからできるんじゃないかと言われますが、思い返すと最初は僕も何もできませんでした。でも暮らしの中で必要性が生まれていろいろなことをやっていくうちに、今日お見せしたような作業場ができ、農作物を育てるだけでなく機械の修理もできるようになリました。思い返してみると僕が子供の頃は、漁村の祖父の周りの人たちを見ていると、もう普通におじさん おばあさんとかいろいろな人たちがいろいろなことができていたし、何かを 1 聞けば 10 返ってくるぐらいだったんですよね。5 年くらい前に関わった村でも、そこのおじいさんたちは、炭焼きとか何か作業がはじまって道具を忘れると、家に帰らず森に入っていくそうなんです。それで10 分も経ったらもう必要な道具ができて帰ってくるみたいな。人間は本来何でもできていたんだと思うんです。 よく百姓が100 のことができると言いますけど、本当にみんなそうだったんだと思います。

それを今のようにさせたのは暮らしであり、もっと社会は豊かでいろいろな人材がいたと思います。 日本の高度経済成長も、当時金の卵といって田舎から若者たちがたくさん都会に寄せられて。農的な 暮らしをしていた人たちが集められたので日本は経済成長できたと思います。そういう意味でも今の第三次産業の人たちが 7 割占めている社会というのは、いい人才を生まないと思います。もっと 第一次・第二次産業の人たちがたくさんいて、その中からいろいろなことができる感覚がいい人たちが育っていって、そういう人たちが第三次産業を担ったりIT企業に入っていくと、多分もっと新しいアイデアが生まれたり、生活に根ざしたテクノロジーの応用が生まれてくると思うんです。

忽那:
よくわかります。そうは言っても、誰でもすぐできるではないですが、きっかけづくりみたいな、 例えば先ほどのセラピーロードの事例のような、そこへ行く、登山をするとか、その趣味の人だけ ではない体験というのをデザインしている事例だと思うんですよね。その体験が一つ増える、もう 一つ増える、そういう過程でだんだんと自分が自然と共にある暮らしとか、時間が使えるようにな るという話ができたらいいなと思います。

第三次産業にいる人たちも働いている環境自体が、例えばレストランを出す時に、横の畑で採れたも のを添えて出すとか。そういうことを一つ一つやることで、できるようになることも増えるし、自分 で教えられるようになることが一番自信につながり、自分の一部になると思っています。先ほど話し た泉大津市でも、公園の中にあるレストラン・カフェが公園が分かれていたのを一旦融合して生産し ているものや提供するもの自体も、ウェルビーイングあるいは繋がりがあるレストラン・カフェを公 園内で経営するというのをやってみたいと思っていまして。できるようになる道筋みたいなものを 社会に提供していかないといけないなと考えているところです。

鈴木:
四井さんいらっしゃる環境に住める人ってなかなかいなく、自分から住んでいかないと難しいと思うんですが、都会に住んでいる人でも、こういうことをすればいいんじゃないかみたいな、何かきっかけになるような取り組はあるのでしょうか。

四井:
例えば過去の事例で、小田原のみかん園が荒廃して 124ha くらいが放置されている状態でしたが、 当時小泉内閣の農業特区で小田原市だけ NPO とかの法人が借りられたんです。そこでも 9 年間 パーマカルチャーをもとにみかん園を再生して、場づくりをするみたいなことをやってきました。 そうすると 9 年間、本当に皆勤賞もらえるくらい通ってくれる人もいて、キャンセル待ちが出るほど参加者も増えて。

それで来てくれる人たちにどうして毎月来てくれるのか聞いたら、東京から小田原に通ってこの作業をやることが暮らしの一部になっていて、もう来ないと気持ち悪くて仕方ないと言っていたんですけど。農の体験や暮らしの体験ができる場所、家でコンポストをつくってできた堆肥をちゃんと返せる場 所とか、そういうような場所を自分で探したり、顔の見える取引の中で何かつながりができたりと か、それをまたコミュニティとしてやっているようなところに参加したりとか。多分今の時代だと結 構いろいろな方がやられていると思うので、そういったものに入っていくのもいいと思います。クル ックフィールズでもそういった仕組みを実際につくろうとしているんですよね。

武田:
家族4人の生活実験を大きくすることができるというお話しで、クルックフィールズも実際そう だと思うんですが、大きくする時のコツというか、大きくすることは家族 4 人の実験をそのまま 全員に強いるという事よりは、その大きな循環のそれぞれの役割をそれぞれの人に担ってもらう みたいな話なのかなと思ったんですが、大きくする仕方として何かお考えのことがあったらその お話を聞かせてください。

四井:
環境を変える動きがまだ意識高い系みたいに思われる時代ですが、とはいえ意識は高まっていて、 でもやっぱり環境を循環させる技術とかそういう理解はまだ浅いので、例えば堆肥をつくることも それなりに技術が要りますし、コンポストトイレを利用するにあたっても、水の流れないトイレを 嫌がる方もたくさんいるんですよね。クルックフィールズは基本的に水洗便所を使えるようにして バイオジオフィルターと繋げている。今のライフスタイルを変えなくてもインフラを変えることで ちゃんと循環する仕組みにしてあげるとか、そういう風に変えてあげればいいと思うんです。

僕の将来の夢は東京湾をバイオジオフィルターにすることですから。万人以上の人が意識せずに暮 らしても循環するインフラが社会にあるという。グリーンインフラとかもまさにそういうことだと 思います。そこに持っていくにはある程度、全体の 10%以上の人たちが農的な暮しをしていたり、 あるいは農業人口を増やしていく中でそういう価値観を増やしていきインフラに繋げていくとか、 そういった風な動きがないとなかなか難しいと思うんです。そういう風に考えていくと、先ほど第一 次・二次・三次産業みたいな話をしましたが、農業のコンサルティングをしていた時に、農業ってす ごく難しいなと思ったんですが、やってみて思ったのは、農的な暮らしをしているとスキルも上がっ ていきますし、あと作業小屋も今日お見せしてないですがトラクターとか農業機械も小屋にたくさ んあるんです。そういったものも少しずつ増やしていき農地も広げていって。そうすると今では余剰 物も出てくるので、友人に売ったりする。僕だけでなく家族も、生産スキルがあがっていくとそれが いつか生業になったりする。そういう風な感覚とか、そういう能力の人たちとかそういう生業をやる人たちをいかに増やしてい ってインフラとくるめて社会全体がいかに持続可能にしていくかを、戦略的に考えて展開してかないと、この国も世界も未来の暮らしはないと思うんですよね。

武田:
そういう共通認識を広げていくときに、風景の美しさみたいなものが人の心に訴えかけるようなことも意識されますか?落ち葉を集めて間隔を開けて風景をつくるというお話がありましたが…

四井:
意識します。僕がパーマカルチャーデザイナーになった理由がもう一つありまして。やっぱり今の 日本の景色は、みんなつくられているという感覚があります。日本なのにイングリッシュガーデン とか、西洋の手法で考えるとか、南プロヴァンスの建物みたいなものとか、もうやめてよと感じて しまいます…

明確なことが、軒下が短い建物は寿命も短くなるし、暮らしに伴わない景色はわざわざそれ維持する ためにメンテナンスをしなくてはいけない。例えば、棚田の再生とか里山再生もそうですが、本来景 色というのは暮らしから生まれていて、その中で草を刈ったり棚田を維持したりということがあって、そして景色があったのに、今はわざわざその景色を維持しようとしている。そういう景色をつく ろうとしているというのは、僕からするとまさにフェイクに感じてしまいます。

だけど、うちでやっていることは何かというと、暮らすことが景色を生んでいる。例えば庭の掃き掃 除をすることは堆肥の材料を集めることになり、木工作業も堆肥の材料になり、それらの作業をやる ことは暮らしの景色、庭の景色、ランドスケープデザインになり、あるいは家具ができ、室内の景色 が生まれ。まさに本物の景色がそこに生まれるわけです。そういうことをちゃんと公園などの施設の 中にデザインとして組み込んでいくと、メンテナンス費用もどんどん落とすことができるし、それに 関わる人たちのスキルアップにも繋がっていくと思うんです。

忽那:
ランドスケープリノベーションと言っていますが、様々なプロジェクトですぐ木を切って新しく つくろうという話になるんですが、育ってきている木は 1 本も切らない。しかるべき場所に新しい 関わり方を生むものを挿入するという事をよくやっています。そうするとそこでずっと育ってきた 樹木なので、別に冠水まわして花畑にする必要もないんですよね。そこに暮らしとしての、例えば 大学のキャンパスとか公園でも元々長くある資源というのがあるはずで、それを読み取って、家の建て方とかでも環境を読み取ってうまく挿入していく。

四井さんのお話や写真には、自分の食事する場所、作業する場所など空間が見えているので、隙間の 読み込みがすごく美しくなる。そしてやはり人がいてさらに美しくなる、人の気配がするデザインが 暮らしの中ですでにできているということに非常に感動して、そういうデザインを都市の中に持ち 込めるのではないかとお話を聞いていて思いました。

武田:
パークマネージメントとかでお手伝いする機会がありますが、四井さんがお話されたことに合点 があって、それらのプロジェクトでは先に「暮らし」があるか聞かれると多分なく、何となく先に 公園がきてしまっていて、そこにパブリックライフをどうつくるかという順番になっている部分も あって、反省させられる話だと思ってお聞きしていました。

忽那:
先にアクティビティがあって、その後に環境をつくっていかないといけないですよね。これまでは 何もできないがんじがらめの仕組みとしての法律が先にあって、それを前提に設計して、その限定 されたものすごく狭い範囲で「はい、遊びなさい、使いなさい」となっているので、それを本来は すべて逆転しないといけない。人が活動すること、暮らしの中でその場所をどう使っていくかというのが先で、法律でそれが禁じら れているのなら、例えば公園内で火を焚くのは禁止なのであれば、それを可能にする法律にして、そ れからその空間をつくっていく。そういう順番にするために行政の仕組みも変えないといけない気 がしています。

四井:
本当にそう思います。この地球の原動力って生き物が生活することなんです。その結果として栄養が循環したり、水が循環したりそこに栄養が留まったりエネルギーをとどめたり、そういうことが起こっている。まちの仕組みも社会の仕組みも、人が活動することによって、いろいろな繋がりの 中で副次的に起こることが、ポジティブフィードバックを生んでいくように本来はなっているはずです。

でも現代社会は先ほどから皆さんもおっしゃられているように、セグメントが分かれていて その結果、繋がりが断たれている。今は学校も 1・2・3 年生と横の繋がりになってしまっていて。でも風越学園は縦の繋がりだから上の子が下の子に教えるという流れができているんですよね。やっぱり繋がりが実は他のいろいろな機能を生んでいって全体が安定していき、人の活動が全体を動かすという風に自然と同じ仕組みになっている。だからこそいろいろな物事、公園にしても商業施設にしても会社の組織にしても、みんなそういう風にデザインしていかないと実は無理な持続可能性を生んでいるんだと思います。だからこれからはそういう風なデザインをすべてのところに意 識していって意味のあるデザインにしていくべきだと思っています。

武田:
暮らしの手触りというか、暮らしたことの結果が目に見えて変わる風景として見えるというのが大事な話だなと思いました。だから美しいと感じたのと、向こう側にいる人たちの暮らしが景色に透けている感じがして。今日見せていただいた写真は本当にそういう美しさであって、ハリボテでつくられた美しさとは全然違う種類の美しさだと感じました。

四井:
まちづくりもそういう風になっていくと、アイデンティティが生れると思っています。今はどこに 行っても同じ景色なのが良くないと感じていて、そうなると子供たちは故郷に帰って来なくなるし、 都市に集中しちゃうと思うんです。人がいることによって原動力になってその仕組みが動いたり、 景色が生まれたりして持続可能になっていく。そこに人の存在意義が生まれると思っています。

だから環境を壊すのではなく、その場所を豊かにし、そこにいる人たちにアイデンティティが生ま れ、そこで生きて行く覚悟が生まれたり、子供達にいかに受け継がせていくのかという思いが生まれ たりというのは、やっぱりそれも持続可能な社会の原動力だと思います。

忽那
変な意味ではなく、マネタイズとかそういうことを都市の中でまわしていくのも大切ですよね。パーマカルチャー的な文化や関わるきっかけをつくったり、そういうものがまわっていく、そして それぞれの役割が地域通貨的な話かもしれませんし、ビル・モリンソン氏も寄付行為と社会を変え ていく活動みたいな話を書かれていたと思いますが、クルックフィールズみたいに大きくしていく際には、ファンを増やしていくという面でファンづくりを意識していて、つくっていくところとか プロセスに関わりたいという人がけっこう増えてきているので、財政が一方通行で使う予算の話ではなくて、まわる仕組みでパブリックが運営できたらなとチャレンジしているところです。

一般的に公園はつくったらもうそれ以上手を入れてはだめといわれて、整備済みとかになってしまって、風景をつくる上ではそれが一番だめだと今日感じました。でも国の補助とか入れていると制限 が出てしまう部分もあるので、だからこそ循環したレストランから出たゴミでまわしていくことで、 レストランも収益が上がった分を、ちゃんと活動費にまわしていくとか、ボランティアの育成とか次 世代にまわしていくとか。公園の中でも循環するマネタイズの仕組みをつくっていく、お金のことも 皆さんに伝えながらやっていくというのを、今いろいろやっていっています。

四井:
素晴らしいですね。こうやって皆さんが一つ一つ疑問を持って、それに対するソリューションを生み出していこうという、そういったそれぞれの努力が実って社会の仕組みになっていくと思っ ています。今は過渡期だと思うんですが、皆さんと一緒にこれから頑張っていけたらいいと感じています。今日はありがとうございました。

視聴者の皆様、登壇いただいた皆様、ありがとうございました。
今後のセミナーもどうぞご期待ください。

(⽂責:事業セミナー委員会)

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