JLAU庭園文化セミナーvol.21 【宮城俊作氏『庭と風景のあいだ』出版記念 平等院庭園見学+セミナー】

実施概要
●開催日時:2023年2月4日(土曜日)  13:00~18:00
●実施場所:宇治平等院鳳凰堂(最勝院・鳳翔館~平等院ミユージアム~) 
中宇治BASE(アーバンデザインセンター宇治)
●講師:宮城俊作氏
   (東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻教授、設計組織PLACEMEDIA パートナー)
●参加者:20名(JLAU会員11名・一般8名・学生1名)


 本セミナーは、日本を代表する庭園見学を通じて、我が国固有の庭園文化や技術に触れる連続セミナーのNo.21となります。講師である宮城俊作氏による著書「庭と風景のあいだ(鹿島出版会)」が2022年9月に上梓されました。その出版を記念して、本書で取り上げられた内容を踏まえながら以下の3部の構成により展開されます。
 ・第1部「平等院庭園・鳳凰堂内部拝観・鳳翔館見学」
 ・第2部「宮城先生ご講演『庭と風景のあいだ』」
 ・第3部「ディスカッション」


第1部:「平等院庭園・鳳凰堂内部拝観・鳳翔館見学」

 ランドスケープアーキテクトとして国内外を問わずご活躍されている宮城先生は、一方で国宝宇治平等院の住職としての一面もお持ちです。世界遺産でもある平等院のすべてを知り尽くした先生の解説を身近に拝聴しながら、庭園および鳳凰堂や鳳翔館などの建築を見学するという貴重な時間の幕開けです。

 普段は足を踏み入れることのできない最勝院の一室でレクチャーが始まります。1053年に建立された現在の鳳凰堂は、千年近い歴史の中で、美しいが故に構造的老朽化が進んできました。その建築を維持するために実施された「昭和と平成の大改修」について、多くのスライドと共に解説が重ねられます。

 

昔の改修方法と技術の進歩した現代の改修方法の違いまで踏み込んだ解説は、聴く人を釘付けにした内容でした。

 そして略史を皮切りに、ランドスケープ的観点からのレクチャーへと続きます。鳳凰堂が建てられた方角の理由と構成を、宇治の山並みや、かつて存在した巨椋池などを手掛かりにランドスケープアーキテクトの視点から論理的に解説してくださいました。冬の日の山並みのあいだから差し込む朝日の光条や、鳳凰堂を背景とした夕焼けの空の広がりといった印象的な風景はすべて巧みに計算された設計であるということを、余すところなく伝えてくださったことが心に残りました。

 聴講後は、平等院の庭園・鳳凰堂内部拝観へ向かいます。宮城先生の解説の後、目の当たりにした蘇りし鳳凰堂の朱色の鮮やかさには、この建築の大改修にかかわった多くの人の情熱と技術を現したものであると理解を深めました。この鳳凰堂の周囲には際立ってモミジが多く植栽されています。秋にはこの朱と紅葉の紅が織りなす景色を見ることができるのでしょう。そして、周囲の山々へ視線を送りながら、朝日指す光の行き先を参加者の誰しもが追いかけたのは言うまでもありません。


第2・3部:宮城先生ご講演『庭と風景のあいだ』+ディスカッション

 第2・3部からは場所を、「中宇治BASE」に移します。こちらは宮城先生が取り組むまちづくり活動の一環で創出された拠点スペースであり、築70年の酒店跡をリノベーションしたものであります。

 著書「庭と風景のあいだ」より、「第五章 歴史都市のランドスケープヴィジョン」に焦点をあてて、ご講演いただきました。本の内容の解説はもとより、その実例として、宮城先生が歴史都市京都において手掛けられた実際の作品や現在進行中のプロジェクトについてもご紹介いただきました。

 「HOTEL THE MITSUI KYOTO」での事例写真や進行中プロジェクトの計画図が拝見できた貴重な機会。講演の骨子である「スケール横断的な環境と景観のヴィジョン」が、水や緑、歴史的遺構を介しながら現実の風景としてデザインされ展開していく様は、感嘆と心地よい刺激を与えてくれました。庭園を単なる一作品ではなく、ランドスケープの枠組みでとらえること、その必然とそこから生まれる可能性について、強く感じることができました。

 今回、実はセミナープログラム以外にも貴重な収穫を得ることができました。平等院から中宇治BASEまで徒歩移動する際、おまけとしての見学にはもったいなさすぎる施設見学。なんと宮城先生のオフィス(‼)の中にもご案内いただきました。先生のデスク前の巨大なガラス張り向こう側の景色をみて、参加者それぞれ「宮城ism」を心に感じたことでしょう。

 そしてもう一つ。宮城先生手がけられている現在進行中の古民家改築物件にまで足を運びます。建物をそのままの状態で移動する「曳家」と呼ばれる建築工法を用いた古民家改修の現場でした。継承者の少ない曳家の技術を前に、参加者の目線は「浮いた建築」の足元へと引き寄せられていました。スクラップアンドビルドを繰り返す日本の潮流の中で、衰えさせてはいけない工法による「再生と活用」の意味を考えさせられました。

 イベント中のすべての時間において、宮城先生のランドスケープアーキテクトとしての姿勢や考え方に触れられる機会を得ることができ、非常に充実したセミナー体験となりました。

(文責:榎木、境)


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