【ROAD TO 2023 JLAU が掲げる 3 つのテーマ オンラインセミナー】Landscape Well-being vol.01

「Well-being × Landscape」〜幸せな場所のつくり⽅〜

実施概要

⽇ 時|令和 3 年 9 ⽉ 30 ⽇(⽊)
会 場|オンライン(ZOOM ウェビナー)
登壇者|坂倉杏介⽒ 東京都市⼤学 都市⽣活学部 准教授
⼊江智⼦⽒ ⼤東公⺠連携まちづくり事業株式会社 代表取締役
三牧浩也⽒ 柏の葉アーバンデザインセンター 副センター⻑
忽那裕樹⽒ JLAU 副会⻑ 2025 年⽇本国際博覧会特別委員⻑ 株式会社 E-DESIGN 代表取締役
鈴⽊裕治⽒ JLAU 常任理事 事業セミナー委員⻑ studio on site 取締役パートナー
参加者|116 名(登壇者、スタッフ含む)
主 催|(⼀社)ランドスケープアーキテクト連盟

JLAU は 2023 年に⽇本で開催する国際会議「IFLA-APR ⼤会」に向け、メインテーマである「Living with Disasters/⾃然とともに⽣きていく」を⽀える 3 つのテーマ「Green Infrastructure」「Well-being」「Landscape Culture」に即した、オンラインセミナーシリーズを開催しています。
本セミナーは、「Well-being」をテーマとした内容では第 1 回⽬のセミナーとなります。
アフターコロナの都市空間においては、⾝体だけではなく、精神⾯・社会⾯も含めた新たな”健康”を意味する「Well-being」という概念が希求されます。ランドスケープデザイナーが都市の中に「Well-being」をどのように持ち込むか、何を果たせるか、実践されておられる⽅々の⽣の声をお聞きし、今後の「幸せな場所のつくり⽅」を模索しました。

session1 「Well being を学ぶ」

専⾨家である坂倉⽒をお招きし、「Well-being とは何か?」を、事例を通して紹介していただきました。また、
その内容を基に、JLAU忽那⽒と“Well-being”についてディスカッションを⾏いました。

坂倉先⽣より ウェルビーイングとは何か?

【⾃⼰紹介、芝の家・芝の原っぱ事例紹介】

東京都市⼤学でコミュニティマネジメントをテーマに研究をしています。そこを軸⾜にして、まちを考えていく⽴場で、ウェルビーイングの研究をしています。
まちづくりのウェルビーイングって何だろう、ウェルビーイングなまちづくりって何だろう、まちや地域に関わることは、結構、⼈間のいい状態につながりやすいな、ということを考えながらやっています。
ゼミは、コミュニティマネジメントで「⼈と⼈との「ほどよいつながり」を増やすことで、⽣き⼼地のよい地域をともにつくっていく研究室」です。東京都市⼤学の地元、世⽥⾕区尾⼭台でも地元のみなさんとも⼀緒に活動しています。

【ウェルビーイングについて】

私がウェルビーイングの研究をはじめたのは、JST の「⽇本的 Wellbeing を促進する情報技術のためのガイドラインの策定と普及」研究プロジェクトです。その成果として、「わたしたちのウェルビーイングをつくりあうために-その思想、実践、技術-」を出版しました。技術の発展と⼈間のいい状態をどうバランスさせるのかを考えようという研究でした。⽇本的なウェルビーイングを探すというのがポイントでした。

⼈類は病気になったら直そうとか、社会的な病理・問題があるから解決しようなど、悪いものを良くするということにフォーカスしてきましたが、この 10 年ぐらいで、ウェルビーイング・よい状態についてちゃんと考えましょうという流れになってきました。
あまり⽇本語だと馴染みがないですが、SDGs の 3 番⽬「すべての⼈に健康と福祉を」は英語だと「good health and well-being」です。17 のゴールの 1 つになっているぐらい⼈類のゴールだといっていい。
慶応⼤学の前野先⽣がウェルビーイングのわかりやすい整理をしてくれています。狭義の健康は⾝体的や精神的な健康で、社会的な⽣活などいろいろなこと、主観的な幸福度も含めて、ウェルビーイングが⼈間のいい状態について⼀番広い意味を含む⾔葉になる。

ディナー先⽣の⼈⽣満⾜尺度を図る指標は、幸福度に近い、満⾜度やポジティブ感情にフォーカスした指標です。7 段階で回答して、20 点ぐらいが平均だそうですが、⽇本⼈は平均よりも低いと⾔われています。⽇本⼈はものすごく幸せでも、10 に丸をつける⼈はいなくて、7 とか 8 とかにつける。ウェルビーイングは欧⽶の概念なので、欧⽶的な成功観を反映した物差しになっているので、⽂化的・国⺠性が出る。

ウェルビーイングは、⾝体的な健康にもとづく医学的ウェルビーイングがベーシックにある。次が快楽⼼理学的・主観的ウェルビーイングで、幸せであるとか楽しいとかのポジティ
ブ感情や⼈⽣満⾜度がある。

また、持続的幸福、道徳的な幸福、楽しい・うれしいだけではなくて、苦労はするけれども達成できたとか、社会的な意義があるとか、⼈に貢献しているとか、こうしたことも含めた、多⾯的な要素が、⼈のいい状態にかかわっているということが分かってきています。
いろいろな分類がありますが、有名なのがマーティン・セリグマンの PERMA(パーマ)モデルです。

  • ポジティブエモーション(肯定的感情)/うれしい・⾯⽩い・楽しい。
  • エンゲージメント(集中・没頭)/何かに集中できる没頭できる、夢中になっている状態。
  • リレーションシップ(良好な⼈間関係)/他の⼈との良好な関係がある、他の⼈から気にかけてもらえる、助けてもらえる。
  • ミーニング(他社や公に対する貢献)/やっていることに社会的意義がある。
  • アチーブメント(⾃⼰の達成)/⾃分が何か達成できる。

それから、欧⽶的には⾃分が成功して賞賛されているのがいいとされていますが、⽇本⼈は⾃分だけが突出して成功するよりも、みんなで成し遂げたほうがいいと思う⼈が多いと思います。京⼤の内⽥先⽣の研究で、欧⽶型は⾃分がいい・幸せだということに、他の⼈はあまり関係がないが、⽇本の場合は、⾃分の周りにいる⼈の感情も含めて⾃分のいい状態になっている、混じっている、ということが分かっています。

さらに、個⼈でも違っています。我々の研究では、まず⾃分のウェルビーイング要素を考え、3 つ出してもらうワークショップをして、そこから考えていくということをやっていました。その結果、すごく⾃分に近いところから他者との関係、それからすごく超越的な宗教とか⾃然観のようなことまで、幅広い要素があるのではないか。デザインする上で、そういう⾒⽅がけっこう役に⽴つというのがあって、⾃分とつながる、他者とつながる、社会とつながる、世界とつながることで⼈間はいい状態になりやすいというふうに思います。
それから、個⼈がウェルビーイングになろうと努⼒しても限界があるので、社会全体、プロダクトや社会制度、サービスなど、いろいろなものを通じて、結果的に⼈のいい状態に繋がらないと、なかなか全体のいい状態にはつながっていかないのではないか、ということで、ワークショップで、まず、あなたのウェルビーイングは何ですかということをお互いに聞きあってから、アイデアを出していこうということをやっています。この⼿順で発想すると、アイデアの出⽅や質感がちょっと変わってきます。

【尾⼭台のプロジェクト ウェルビーイング・リビングラボ、公園づくりのワークショップ】

今、⼤学のある尾⼭台で、学⽣や先⽣と地元の⽅と⼀緒に、ウェルビーイングを考えるラボを作るプロジェクトを進めています。⼤学にとっては知⾒を社会課題の解決につなげて⾏くために、コミュニティと⼀緒にやろうと。ワークショップでこんな場所ができたらいいねということを作ってきて、2階建ての建物の 2階をリビングラボにして、1 階をカフェ的な空間にしようと、今みんなでリノベーションをしています。
この場所から歩いて 10 分ぐらいのとこにある公園の拡張部分の計画に、忽那さんに関わっていただいています。屋外でワークショップを⾏うスタイルでやっています。オープンスペースをみんなで考えて、つくって、使うというのは、ウェルビーイングになりやすい。
私とつながる:⾃分のやりたいことが実現できるとか、がんばってこれを作るという達成感。他者とつながる:参加して初めての⼈と出会って関係ができる。社会とつながる:公園はまさにパブリックライフの場で社会的な⽣活の場でもある。公園ですごいのは、世界とつながる:⾃然や歴史などの⼈間社会よりも少し超えたものとつながる機会がいっぱいある。全部ができる。
もともとランドスケープはウェルビーイングじゃないかと忽那さんもおっしゃっていたが、改めて本当にそうだったねと考えると、どんなことが⾒えてくるのか、今⽇みなさんとお話できればと思っています。

坂倉先⽣と忽那⽒のディスカッション

忽那:
ウェルビーイングとは、国連でも⾔われている 3 つ、⾝体、精神、社会の健康な状態、ゴールがあるのではなくて、そういうものを少しでも良くしていくとか、よりよい状態に置こうとする、そういう状態になるように、常に気持ちがなっていること。bing と付いているあたりに根幹のイメージがあるのでしょうか。

坂倉:
基本的にその⼈の主観的な評価なので。⼀回、すごくいい状態だからもうオッケー、ということではなくて、変動する中で、できるだけその良い状態が保たれるにはどうした⽅がいいのか、という話になっているので、⾮常につかみにくい。
他の⼈と⽐べることができる「地位財」は⼀瞬で⻑続きしない幸せで、⼈と⽐べられない「⾮地位財」の幸せの⽅が⻑続きすると⾔われています。多分、⽇本⼈は数値⽬標を⽴てて、⽬標めざしてクリアするというのが得意で、つかみどころのない、他の⼈と⽐べようがないけど、その⼈にとって幸せにつながるものを、みんなで⽬指そう、というのは難しい。何の役に⽴つの?とか誰が喜ぶの?となる。

忽那:
今、地域に⼊って仕事をしていく時に、専⾨家として課題とか悪いところばっかり⾔って、それを対処療法で直すのが仕事みたいなやり⽅になっている。あなたのここが悪いと⾔われても付き合いたくないじゃないですか。いいところを引っ張ってくれる⼈と付き合いたい。それはまちづくりでも⼀緒だと思います。そういうところで、「私たちのウェルビーイングをつくりあうために」という、「私たち」という概念と「つくりあう」という概念がすごく感動したところです。

坂倉:
つくり合うという状態は、⽇本的ではあるけれども、例えばサービスを提供しようとした時に、⽇本は、お客さんと提供する側の区別を明確にするように近代的な社会が発展してきています。欧⽶の⽅が提供している側と、受けている側が対等に近く、区別があまりなくて、両⽅ともいい関係になっている。
それが、公共空間を作るときには⼤きな問題で、みんなでいい状態を作り上げていく、という感覚を持ち合わせていなくて、公共施設は誰かが作ってくれて、俺達は使わせてもらうだけという考えや、あるいは、⾃分は何でも権利があるからやっていいとか、逆にやってはいけないことは全部規制やルールがあって、⾒えない壁みたいなものをつくって、⾃由に動かせない・動かさないという感じになっている。あえて「つくり合う」と⾔っているのは、もっとその辺の垣根を緩めて、いいサービス・いい空間・いいアクティビティをみんなでつくっていこう、そういうマインドが必要なんじゃないかなと思っています。

忽那:
⾃分だけが良ければいいんじゃなくて、例えば地位財でも、たまたま儲かったからお返しするとか還元する仕組みがあると、また、⽴場の違う⼈の達成感につながる。つくりあうという話とはちょっと違うかもしれませんけど、僕は、役割が⾒つかるということがすごく⼤切だなと思ってやってきたんですけど、そのあたりはすごくランドスケープとかまちをつくっていくときのヒントになると思いました。

坂倉:
公園って誰かが作ったものを使わせてもらうというふうに⾒えるんですけど、そこに⾃分がいて、公園やランドスケープの⼀部になって振舞っていることが、その場の雰囲気とか規範を作っていますよね。⾏くだけでも実は⾃分も公園をつくっていて、みんながいろんなことをやっていることがいい状態だったり、あるいは、バラバラに好き勝⼿なことをやっていたらちょっと良くないな、みたいなことがあるかもしれない。使うだけでも実はつくり合っている。さらに、どういう場所であったらいいかを考えたり、実際にメンテナンスしたり、作ったりと、参加できるといい。
⼈間は⾃分以外の環境が誰かがつくったもので、それを使わせてもらっているだけという従属的な状態は、すごく気持ちをしぼませる。もうちょっと⾃⽴的に⾃分から選択して関わって、⾃分が役に⽴っている実感を得られたり、発揮できる場所が、まだまだ⾜りないと思っています。

坂倉:
ウェルビーイングの研究をして、どうすると⼈がいい状態になるかを出していくと、役に⽴つとか、役割を得られるとか、いい関係性になるなど、街づくりでやっていたことが、全部⼊っていました。
これまでの住⺠参加のまちづくりとか公園づくりは、⽬的がいい公園をつくることとか、みんなの意⾒が反映された⽂句が出ない公園をつくるとか、メンテナンスにみんなが関わることでコストが下がるとかいうことですが、そういう作り⽅をして、なぜ良かったかというと、もしかしたら、みんなが幸せになっていた、ウェルビーイングになっていたという要素があったのかもしれない。これまで⾒ていなかった、参加者がどんどん良い状態になっているというところをアウトカムとしてちゃんと⾒たら、なにかブレイクスルーが起こるんじゃないかと思います。

忽那:
⼀度チャレンジして、ダメだったら⽌めたらいいし、また⾯⽩いことがあったらやってみればいい、そういう感覚の付き合い⽅を⽀えていくことができたらいいなと思っています。
今までは、スペック通りつくれても本当に使われているかどうかということを事後評価してこなかった。でも、マネジメントの感覚を⼊れて⾏くと、そこが使いこなされてないと、⼈も物もコトも、持続可能ではない。そこを全部任せていけるような制度ができたらいいなと思います。芝のはらっぱのプロジェクトなんかは、それを⽰唆する感じがあります。

坂倉:
空き地もラボもそうですが、⼈間はモノに意識が囚われてしまいがちだが、実際は、つくっている⼈たちの関係性がどんどん豊かになっているという、⽬に⾒えないアウトカムをつくっていることを絶えず意識しています。モノをつくると同時に、作るという経験を共有することでしかできない関係性とかコミュニティができている。うまく⽣み出せていけば、できたものを維持管理していく時の⼤きな⼒になる。作るだけで終わってしまうと、その後メンテナンスしていくために、また新しいエネルギーを使わないといけなくなる。

忽那:
もし、原っぱが駐⾞場になってしまっていたら、周りの⼈たちは関わりようがないけれど、原っぱになったことで、⾃分の役割が⾒つかる場所になっている。デザインの⽅向性や⽬標像は持っているべきだと思いますが、まずはやってみて、やりながらこうした⽅がいいという意⾒が出たら、計画変更があってという、そういうことも達成感につながると思う。

坂倉:
I から WE、UNIVERSE という話。ひとつの⽬標像を持つということとか、庭のなかで座禅を組む、瞑想するとか、違う世界とつながっている表現が庭にあったり、「私」から「私たち」、その先の超越した「ユニバース」とつながる感覚を共有する、そういうことがすごく重要なところで、最後のところが全然⾒えないんですけれども、おいおいそういう話も議論をさせて頂きながらやらせていただければと思います。

忽那:
今⽇は、短い時間でしたが、ウェルビーイングの話をわかりやすく、ランドスケープとつなげる感覚も出していただいて、本当にありがとうございました。

session2 「地域社会の中で役割を⾒つける」

ランドスケープデザイナーである、“Well-being”チームが関わったプロジェクトの事例紹介。紹介するプロジェクトに深く関わっている⼈物を招き、それぞれのプロジェクトについてポイントを絞ってディスカッションを⾏いました。実際に施⼯(運営)されているプロジェクトを通して“Well-being”の理解を深めます。

事例紹介1 ⼤東市 morineki プロジェクト ⼊江智⼦⽒より

【位置・事業概要】

計画地は⼤阪府⼤東市四条畷駅の昭和 40 年代に建設された市営住宅の建て替えを公⺠連携で⾏って、これを契機にまちづくりを⾏ったプロジェクトです。私が代表を務める、⼤東公⺠連携まちづくり事業株式会社が、PPP エージェントとなって事業を進めました。
計画地内には、住宅、公園(もりねき広場)、店舗などが⼊った施設があります。全体が公園のような空間で、その中に⽊造の低層の建物が建っているというような設計になっています。
近くに飯盛⼭があり、「ねき」というのは河内弁で「近く」という⾔葉から「morineki」という名称にしています。
ランドスケープデザインの考え⽅ランドスケープデザインは、E-DESIGN に関わっていただきました。住⼾と中庭、中庭と公園、公園と道路や店舗の間に「境⽬がない」をテーマとし、サイレントマジョリティの 8割ぐらいの⽅にいいなと思ってもらえるようなデザインを⽬指しました。公園の形が整形的ではなくて、⼊り組んだ形になっています。レストランも Park‐PFI とかではなく、別敷地として設計してくれています。こういうところが、⽤途地域の変更と合わせて公⺠連携でできた⾵景だと思っています。

【各施設の紹介】

店舗の 1 階にはレストラン、パン屋、雑貨店、アウトドアショップがあり、2 階には 70 ⼈ほどが働くアパレル卸業の本社があります。店舗の経営は 2 階の企業が⾏っています。
もりねき広場は、近所の⼤学⽣や⼦連れの⽅が憩うような場所になっています。管理は、市から管理費をもらって、住宅の中庭と合わせて維持管理を⾏っています。
もりねき住宅は、リビングインという間取りで、中庭との繋がりが濃いデザインで、⽣活が外に滲み出るような形になっています。⼾数を半減して、元々住んでおられた⽅と新しく募集した⽅、借り上げの市営住宅としてスタートしています。

【事業スキーム・資⾦調達】

⼤東市の住宅街なので、「良好な住宅を作る」という⼤きなビジョンに基づいて、テナントをリーシングして、ファイナンス協議をしました。住⺠の⽅に代表になって頂き、東⼼株式会社という SPC(特別⽬的会社)をつくり、⾦融機関からはプロジェクトファイナンスという無担保無保証の借り⽅で融資を受けました。
⼤東市からの 6 億円の出資と銀⾏からの 10 億円の融資で、すべて設計・施⼯をやって、今はテナント賃料と⼤東市からもらう家賃、⼟地代は⼤東市に払っていますけど、それで返済をしています。
公的⽀出・負担の抑制を⼤きなテーマにしているので、絶対に直接建設よりもお得になるように設計しています。20 年後の借り上げ期間を待たずに、部分的に⺠間賃貸に移⾏して⼾数を減らして⾏くことで、費⽤の負担を抑えていこうと思っています。⺠間賃貸にウエイティングが出るくらいの環境をつくるために、公⺠連携で⼊られているテナント企業やお店のやりたいことを⽀援したり、適切に性格の異なる施設を維持管理することで、エリアの価値向上を⽬指しています。

【⾼齢者相談窓⼝ 地域包括⽀援センター業務】

地域包括⽀援センター業務を担っていて、⾼齢者の相談窓⼝を運営しています。いろいろな相談がある中で、家から出て、⾏きたいと思える、会いたい⼈のいる「居場所」というのがセットになった「住まい」が⼤切だと感じています。リスクのあるひとり暮らしなのか、いきいき楽しんでいる 1 ⼈暮らしなのかを測る「おひとりさま様偏差値」というものを作りはじめています。

質疑応答

坂倉:
建物が 2 階建てになったことで飯盛⼭が⾒える⾵景になり、ちゃんと周辺環境に配慮して、建物が建っているということを感じることができて、⼭があって私たちの暮らしがあるんだ、みたいなことに気づかされる。お⾦に換算できない⼟地の⽂化やそこに住んでいる⽅のいい感じを含めて設計されているのがすごいと思いました。

忽那:
ものすごく多様な⼈が集まるような空間になっていて、すごく魅⼒的。なんでそんなところを⼀気に作れたんでしょうか。

⼊江:
⾯⽩いスキームだと思ってくれて、企業の⽅も乗ってきてくれたし、建築やランドスケープの⽅々も協⼒してくれました。公園については、急に市役所が公園の基本設計をやらせてくれるという話になったのですが、使われ⽅によって全然変わるので、市から「開発にかかる技術的助⾔業務」という名称で委託を出してもらいました。基本設計ではなく、名前を変えたことが本当にミソです。ちょっと⾔葉を変えるというところは、もともと⾏政にいたので、こんなことはきっと出来るはず、公園の敷地だって別に四⾓くなくていいんじゃないかとか、そういうことは⾔うことができたというのはあります。

忽那:
⼈の活動に合わせた場所を、切れ⽬なく作れたのは、事業をやっている中⼼が⾏政ではなくて、全部の課とか都市部局を超えて産業活性課も関わることになりますから、そのプラットフォームを⺠間側で作ったことの勝利だなと思っています。

三牧:
実は地元なので⾒に⾏きました。パン屋さんに地域のおばあちゃんたちが集まっていて、おしゃれな店員さんと和やかに話している光景を⾒て、少しずつ場所の雰囲気や暮らし⽅⾃体を変えるというか、敷地の中だけにとどまらないような影響があるんだろうなと思いました。

事例紹介2 柏の葉スマートシティ 三牧浩也⽒より

【位置・事業背景】
千葉県柏市の柏の葉でまちづくりをしています。2005 年に開通したつくばエクスプレス沿線の柏の葉キャンパス駅周辺で、⼤規模な区画整理を⾏っています。もともと三井不動産のゴルフ場があった場所で、更地だったところに駅を作り何もないところからスタートをしています。駅名は東京⼤学の柏キャンパスや、駅の近くに千葉⼤の農場があったことから名前が付いています。
駅周辺の区画整理事業は、⾯積 273ha、計画⼈⼝26,000 のうち現在の⼈⼝は 1 万⼈ほどで、駅前から外側に向かって⾮常に⾼密な開発が進んできていますが、外側にはまだまだ更地がたくさんあるという状況で、先の⻑い開発です。

【アーバンデザインセンターの仕組み】

アーバンデザインセンターは、公共と⺠間と⼤学、3 つのセクター、まちに関わるいろんなステークホルダーが、少しずつ⾜を突っ込んで、お⾦を出したり、⼈を出したり、関わりを持った形で、連携するためのセンターです。それぞれが考えていることを持ち寄って、⼀緒にまちの将来を考え、プロジェクトを提案し、お⾦や役割を分担しながら、事業化・実践して、継続・定着させていく。外側を⽮印で囲っていますが、考えながらやってみて、いいものは残して、ということを常に続けていくためのセンターとして運⽤しています。
アーバンデザインセンターは駅前に⽴地しており、まちの中に常設として埋め込まれた「場所がある」ということを⼤事にしてきました。いろんな⼈が⼊って、勉強したり、模型をとりあえず眺めて議論したり、飲み会しながらワイワイやったり、いろんな⼈がいろんなテーマで集まって、公共・⺠間・⼤学の⽴場を超えて、まちのことを議論するということをもう 15 年やってきました。

【UDCK の活動】

UDCK の活動は多岐にわたっていますが、⼤きく3つにテーマを分けると、「先端知を活かすスマートシティの具現
化」「良質なアーバンデザインの推進」「⽣き⽣きとしたコミュニティの形成」です。UDCK という箱の中に情報を集めてきて、⾏政もいろんな部署が関わりながら、⼀緒のテーブルで議論しています。
⼤きなデベロッパーの 100 億単位のプロジェクトをやりつつ、その⾜元にある花壇の管理を市⺠の皆さんとどうやっ
て⾏くのかという話など、次元が違うようで、まちの運営という意味では実はつながっている取り組みを同時に進めている、そんなところが⾯⽩いセンターです。

【ランドスケープの取り組み キャンパス駅の⻄⼝】

オンサイトに関わっていただいたプロジェクトです。⺠間開発(三井不動産と東⼤)で建物を建てる際に、⺠間敷地の建物の外側と公共の道路部分を⼀体的にデザインし、⺠間資⾦で⾼質化をして、地元で管理をしていくというスキームでやったものです。
とにかく境界を消して、⼈が通るだけじゃなく、滞留できる空間をつくっています。

【ランドスケープの取り組み アクアテラス】

アクアテラスは区画整理事業で⼈⼯的つくられた治⽔のための調整池を⾼質化し、⽔際を歩くテラスを作ったり、池の中にステージをつくったり、法⾯にテラス席を設けるなど、⼈のための居場所にしたというプロジェクトです。ランドスケープデザインは⽇建設計に関わっていただきました。
⾼いフェンスで囲われて⼊れない場所でしたが、周辺の⼟地利⽤が進んでいく中で、池の価値がこの地区にとって⼤きいということで、なんとかフェンスを下げて⾨をこじ開けて、中に⼈が⼊れるように、管理の責任分担などについて、⾏政と 2 年ぐらいかけて協議をしながら、公園、池、道路などいろいろな部局が絡んでくる中で、⾏政の中も縦割を超えて官⺠連携でやってきたというプロジェクトです。

【マネジメントの仕組み】

仕組みとしては、⼀般社団法⼈ UDCK タウンマネジメントという都市再⽣推進法⼈を別に作って、柏市と基本的な協定を結んでいます。池の場合は、池で仮に事故が起きたときの管理責任も、この組織で負うというぐらいの腹ぐくりをして、開けてもらったわけです。
市には、既存の管理にかけていた⾦額を負担⾦として出してもらい、⾜りないところは、周辺地区地権者で協議会を
作って負担協定を結んで協⼒⾦(負担⾦)を⼊れていただきます。市からは利活⽤に関しては利⽤料を免除していた
だいた中で、UDCK で活⽤したりしながら使⽤料収⼊を得たり、あとは住⺠の⽅と⼀緒に管理とか掃除をしたりす
ることで、管理費を下げていくということも含めて取り組んでいます。これは、駅前も調整池も同様のスキームになっています。

【まとめ】

最後に、「UDCK というシステムによる『連携』の⽇常化」「分かり合える関係の醸成、⼤切にすべき価値の共有」。UDCK というシステムがもう 10年以上続いてきて、だいぶ関係者がわかり合える関係ができ、何を⼤事にす
るべきかという価値観がいろんな主体を超えて共有されてきたのではないかと思います。
「中間領域をつくり、従来の公・⺠・学の垣根を崩す」。なんかよくわからない UDCK という組織があることで、何か困ったときに垣根を超えてプロジェクトができる。
「現場にいて、隙間を埋める」。常に現場にいるので、何か困っていることというか、ここ誰も⼿をつけていないな、みたいな所を我々が⼿を挙げてやってみるとか、そんなことをやってきました。
あと「空間においても境界をなくす」「役割や責任分担の概念は⾻太に、逐⼀の決まりは詳細かつ柔軟に」などがあります。
それから、「『やりたい』を⼀番⼤切に、あとは、協議、協議、協議」。やりたいことが出てきたら、それをみんなで⾯⽩がってやってみる。あとは、協議、協議、協議で続けながら、とにかく何とかできないかということをみんなで考える。なんとなくそういう雰囲気ができてきているかなあと思います。

質疑応答

忽那:
アクアテラスは、できない理由がいくらでも出てくるところで、ハードルを乗り越えていろいろな発想が出てきたのは、1 期も含めて境界のない⾵景や住⺠参画の事例があったからこそかなと思うんですけど。UDCK という 3 者のプラットフォームがあったから実現できたっていうふうに考えられていますか。

三牧:
特にコミュニティとか住⺠参画の関係で⾔うと、マンションを売り出すときには⺠間不動産からイベントなんかにお⾦が出たりします。それを⼀過性にしないで、UDCK を経由してプロジェクトにしてしまう。UDCK という⺟体があることで、常につながりながらできているっていうのがあると思います。

忽那:
もしも何かあったときのことを理由に全部やめている、やりたいことが実現できないところを、官⺠連携で、誰かが依り代になって、資⾦の⾯や安全管理の部分など、どこかで腹をくくることで実現している。今⽇の事例は芝のはらっぱ、もりねきのような⽊造のプロジェクト、⼤規模な不動産開発まで規模が違っていて⾯⽩かったですが、共通しているのは、仕組みの共有化とか、関わる⼈の多様性を⽣んでいるチャレンジが⾒えというところだと思いますが、いかがですか。

坂倉:
みんな、⾃分の敷地の中での最適解・ゴールがそこになってしまう。でもよくよく考えてみたら、公園は住⼾や商業施設とシームレスになった⽅がどちらにとってもいいはずで、ここで区切ってこっちはあなたの管轄としなくてもよかった。調整池も、ここで区切ってここから先は危ないから誰かの責任でというふうにしなくてもよかった。
ランドスケープは物と物の間の空間をどういうふうに作っていくのかという話だと思って、おもしろいなと思いました。そこにはいろんな⼈が⼊ってくる。⾃分たちの実現できる事を⾃分たちのリソースだけでやると、バラバラになってしまうけれど、もうひとつ上の、そもそもみんなにとって隣の敷地がもっとこうだったらいいんじゃないとか、ほかのところに染み出した⽅がもっといいみたいな、他⼈の⼒をかりて、ひとつひとつの機能を良くしていこうとすると、相乗効果が⽣まれていくのではないかと思いました。

鈴⽊:
境界のない⾵景をつくることができた理由として、学が関わっているのは⼤きい話だなと思っています。⺠が何かをやりたいと提案したときに、⾏政・官は、それはできないという話になりがちですが、先⽣⽅がこれはこうあるべきですと⾔ってくれることで、結局 1 番実現したいのは、住んでいる⽅たちのやりたいことを実現するということだよね、とまとまる。
三牧:
グーチョキパーの関係で例える先⽣が多いですね。⾏政は⺠間には強いけど、先⽣には弱くて、⺠間は⾏政には弱いけど、意外と先⽣には強くてみたいな感じで、いろんな調整でうまい⼒加減をかけたい時に役割分担できるっていうのは感じます。

忽那:
僕は「トライセクター」と呼んでいますが、⾏政と⺠間とか、1 対 1 になるとどうしても議論が拘束的になるんですけど、⼤きく権限がちがう 3 つあることで、3 者でそれぞれの得意を活かして、実現できるようにしていく。

⼊江:
柏の葉ももりねきも、しっかりした⽬的、芯のようなものが、1 つか 2 つあるというのが共通していると思いました。そういう⽴ち返れるものがあれば、⾊々揉め事が起きても、⽬的に合った⽅を選ぼうかという話ができる。

忽那:
トライセクターで、新しい官⺠連携モデルを模索したプロジェクトは、デザインの観点から⾔うと、新しいデザインの地平が広がるんだと僕は思っている。トライセクターで責任を持つ・取り合うとか、坂倉先⽣の話されていた、つくり合うことをやっていくその先に、次のデザインの可能性がまちづくりの中で出てくる。その舞台のつくり⽅がまた新しい関係者・ステークホルダーを⽣み出していくような、好循環が⽣まれたらいいなと。プロジェクトの⼤きさは関係なく、そのチャレンジの成果が⾵景になっている瞬間は他のところにない唯⼀無⼆の⾵景がたちあらわれてくるという気がします。

質疑応答:オンラインセミナー参加者を代表して⼤阪府⽴⼤学 武⽥先⽣より

武⽥先⽣より、①⼈と街の良い社会の関係性、②⼈と⼈を程よくつなげていくってどういうことなのか、③ランドスケープとウェルビーイングに共通する時間的プロセスのデザイン、の 3 つの質問がありました。

鈴⽊:
②の⼈がそこで何かしている、例えば⼦供たちが⽔遊びをしている姿など、何かそこの街に関わって使って遊んでいる姿を、その周りにいる⼈達が横⽬で⾒ている、その距離感というのがすごく重要で、どのくらいの距離なのかや、遊んでいる姿が⾵景として綺麗に⾒えることが重要ではないかと思います。それが相互に作⽤していくと、好循環が⽣まれてきて、良い状態になってくのではないかと思いました。

三牧:
①の⼈の良い状態と街の良い状態という話。気持ちのいい完全に⽤意された空間で、おしゃれにひと時を過ごすような、ただ空間を享受するだけではなくて、そこで何かやってみたいでも良いし、これ汚いから綺麗にしないととか、余⽩や場⾯があることが、⼈が街に関わるきっかけになるのかなと思います。それは無理に作るか、なければ考える機会を作るとか、そういうことを考えながらいつもやっています。

⼊江:
強制的でも⾃然でも、能動的に⼈が関わっているっていうのがポイントだなと思っています。もりねきでいうと、アウトドアショップの⽅が地域の⼦供達と遊んでくれたり、パン屋の⽅としゃべるのが嬉しくて近所の⾼齢者さんが通っているなど、「働く場所がある」ということが、押し付けがましくなく、いい距離感でつながっていて、それが⾵景の 1 つになっていると思います。

坂倉:
個⼈のウェルビーイングと全体・街のウェルビーイングの話でこれは究極的には⺠主主義の話になる。まずは⾃分がやりたいことを⼤切にして、その結果全員のやりたいことが成り⽴たない時に、みんなでじゃあどうしようと、議論、協議するのが⺠主主義。そうする中でみんなの集合的なウェルビーイングとか幸福がだんだん形成されていくと、管理しやすくてリスクがないことが本当にみんな求めていることなんでしょうか?みたいな議論に到達できる機会が増えると思います。バッティングすることもあるけれど、個⼈を⼤切にするその先に、みんなが本当にそうだと思えるような街とか景⾊ができてくるといいなと思います。

さいごに 忽那⽒より

ランドスケープは間をデザインしながら舞台を作り、そこに⼈がいてはじめて美しくなる。お互いがその場を使いこなし合えることで関わりたくなるなど、程よくつながる⼈間関係を作るのではないかと思います。
また、プロセスと役割を⾒つけられる社会が⼤事。プロジェクトがベルトコンベアで流れてきて、専⾨家だけでつないで、しかもフェーズごとに全然違う⼈が関わっていくようなやり⽅ではなくて、最初からプロ・アマ関係なく全員が関わって、共有しながら応援し合える仕組みで進めていく。その仕組みの中で、⾃分がプロとしての職能でできることがあれば、その瞬間、瞬間に提供しながら、⾃⼰実現をしていく。
それから、仕組みを含めて提供できる、トライセクターのプラットフォームをいかに作れるかと⾔うことが、すごく⼤切だと思います。
まだまだウェルビーイングの概念も、もっともっと知りたいですし、次回もいろんな議論をして⾏きたいと思います。

視聴者の皆様、登壇いただいた皆様、ありがとうございました。
今後のセミナーもどうぞご期待ください。

(⽂責:事業セミナー委員会 ⾼橋彩)

最新のReports

  • JLAUスケッチ講座 2024 春・夏

  • JLAU観光部会2024

  • JLAU庭園文化セミナーVol.22 朱雀の庭~作庭の想いを未来へつなぐ~ 井上剛宏+井上勝裕

  • U-40 ランドスケープコミュニティ デザイントーク Vol.22 – 24

  • JLAUネットワーク関西特別セミナー 眞鍋憲太郎「北の大地からのメッセージ~北海道ガーデン街道と真鍋庭園の仕事~」

  • JLAU 関西ランドスケープセミナーVol.07 大野暁彦講演会 「不確かさ」を抱擁する造形

  • 令和6年1月10日開催:RLA資格登録更新講習会

  • U-40 ランドスケープコミュニティ デザイントーク Vol.19 – 21

  • 東日本大震災復興記録部会 2023年度企画イベント第二弾 【風景がたり 第2話「復興と風景のあいだ その2」】